狭い道路での離合中にドアミラー同士がかすった程度の事故など、「誰が見ても大きな怪我はないだろう」と思える状況でも、「痛い」と訴えることで医師が診断書を出すことはあるのでしょうか?また、その診断書が裁判で有効に扱われるのかどうか。近年、こうした軽微な事故でも人身事故扱いとなるケースが増えていることから、本記事では診断書の法的位置づけと、裁判での判断材料としての効力について詳しく解説します。
医師は「痛い」という訴えだけで診断書を書くのか?
結論から言えば、患者が痛みを訴えれば、診断書が発行される可能性はあります。医師は問診や触診、必要に応じてレントゲンやMRIなどの検査を実施し、診断名(例:頚椎捻挫、腰部挫傷など)を付けます。
特にむち打ちや打撲などの外見では判断しづらい軽傷の場合、本人の申告が診断の大きな根拠となるため、軽微な接触事故でも「痛い」と言われれば診断書を書かざるを得ないケースがあります。
診断書は裁判や保険請求でどこまで通用するか
診断書があれば必ずしも「怪我があった」と法的に認められるわけではありません。裁判所では、診断書はあくまで“参考資料”であり、決定的な証拠とは限りません。
以下のような点が裁判では検討されます。
- 事故状況から考えて実際にそのような怪我が生じうるか
- 医師の診断が客観的検査結果に基づいているか
- 通院の頻度や治療内容が妥当であるか
つまり、事故との因果関係の立証が重要であり、「診断書がある=慰謝料や治療費が自動的に認められる」とは限りません。
実際の事例:ドアミラー接触事故でも人身扱いに?
例えば、離合中にドアミラーが接触しただけの事故でも、同乗者が「びっくりして首に違和感がある」と訴えた結果、病院で「頚椎捻挫」と診断され人身事故に切り替えられたケースがあります。
このような事例では、加害者側が「大した事故ではない」と主張しても、被害者の主観的な痛みと診断書の存在によって処罰対象となることがあります。ただし、最終的には行政処分(点数や反則金)や民事賠償額において、事故の態様や被害の程度が評価されます。
診断書を軽視しすぎても重視しすぎてもいけない理由
診断書は医師の専門的な見解を示すものではありますが、内容には以下のような“限界”があります。
- 本人申告に依存しやすい:痛みの有無は客観的に検査できない
- 事故との因果関係の記載は必須ではない:事故が原因かどうかは患者の申告に基づく
- 治療の必要性が医師側の判断に左右される:不自然な通院でも発行される可能性あり
そのため、損害賠償請求や裁判などの場面では、「診断書の有無」だけでなく、「診断内容の妥当性」や「事故の物理的状況」など多角的に検討されます。
万が一のトラブルに備えるためにできること
軽微な事故であっても、現場での記録(ドライブレコーダー、写真、実況見分の結果)を残すことが、後々の法的トラブルを防ぐ上で非常に重要です。
また、相手方が人身扱いに切り替えると主張してきた場合は、以下の点を確認しましょう。
- 医師による診断書のコピーを入手できるか
- どのような症状がいつからあると主張しているか
- 事故当日の物理的衝撃の程度
これらの情報をもとに、保険会社や法的専門家に早めに相談することが大切です。
まとめ:診断書は万能ではないが無視もできない法的書類
誰が見ても大したことがないような軽微な事故であっても、診断書が発行されれば法的な扱いは変わる可能性があります。ただし、診断書があるだけで損害賠償や刑事処分が確定するわけではなく、事故の内容や被害の実態と照らし合わせて慎重に判断されます。
誤解や過剰請求を防ぐためにも、事故後の対応は記録をしっかり残し、必要であれば専門家のアドバイスを受けることが重要です。