会社や学校、各種団体などから支給される交通費は、原則として実際の交通手段や経路に基づいて支払われます。しかし、実際には公共交通機関を利用せず、家族などに送迎してもらっているにもかかわらず、バス代としての交通費を受け取り続けている場合、これが不正に該当するか、ひいては詐欺罪に当たるのかという疑問が生じます。この記事では、法的な観点からその行為の是非を解説します。
交通費支給の基本的な考え方
交通費は、雇用主や団体が従業員や会員の通勤・通学・通所を支援するために支給する費用で、「実費支給」または「定額支給」という方式が採用されるのが一般的です。
特にバス代などの公共交通機関の交通費は、利用が前提で支払われているため、実際に使っていない場合に受給を続けると、制度の趣旨に反する可能性が生まれます。
詐欺罪とは?構成要件を確認
刑法第246条では、人を欺いて財物を交付させた場合に詐欺罪が成立すると定めています。要するに、意図的に虚偽の事実を伝えて金品を得た場合がこれに該当します。
バスを使っていないにもかかわらず、使っていると誤認させて交通費を受け取っていた場合、虚偽の申告に基づく受給と判断され、詐欺罪の構成要件に該当する可能性があります。
実際に詐欺罪が成立するかの判断ポイント
以下の要件が重なると、詐欺罪と見なされるリスクが高まります。
- 交通費申請時に「バスを利用している」と虚偽の申請をしている
- 意図的に事実と異なる情報を報告し続けている
- 受給者自身が実態を隠している、あるいは認識している
- 被害者(雇用主や団体)がその情報に基づき支給を継続している
たとえば、会社に「バスで通勤している」と言って交通費を受け取りつつ、実際は自家用車や家族の車で送迎されていた場合、その「申告と実態の乖離」が問題になります。
実例から見る類似ケースの処分
ある地方自治体では、職員が公共交通機関を利用していないにもかかわらず、通勤定期代を長期間受給していたとして、停職処分と不正受給金の返還命令が出された事例があります。
また、企業でも内部監査で発覚した場合、社内規程に基づいて処分(減給・懲戒・退職勧告等)されるほか、悪質と判断された場合は刑事告発に発展することもあります。
違法とならないケースのポイント
一方で、以下のような状況であれば違法とならないケースもあります。
- 交通費が「定額支給」であり、使用手段は問われないことが規定されている
- 通勤方法変更を会社に報告済で、会社が交通費支給を継続している
- 規定で「最も安価で合理的な経路に対する支給」となっており、それに準じた金額が支給されている
このように、会社や団体の交通費支給規程に則っている限り、法律的に問題とならない場合も少なくありません。
まとめ
バス交通費を受け取りながら、実際は家族に送迎してもらっている場合でも、虚偽の申告をしていたり、意図的に実態を隠していた場合には、詐欺罪に該当する可能性があります。一方で、規定や運用に基づいて適切に受給されているケースでは違法とされないこともあります。
トラブルを避けるためにも、通勤手段の変更があった場合は速やかに報告し、支給内容との整合性を保つようにしましょう。不安がある場合は、事前に人事部門や上司に相談することをおすすめします。