親の介護をしてきた子と、親元を離れて暮らしていた子が同じ相続分というのは、感情的に納得しがたいと感じる方も多いでしょう。特に遺言書が残せない状況下では、法律の定めに従って相続されるため、公平とは限らないと感じる場合もあります。この記事では、認知症で遺言書が残せない親の財産について、介護した子がより多く相続する方法や考え方について解説します。
法定相続分は原則として均等
日本の民法では、被相続人(今回は父親)の配偶者が他界している場合、子どもが相続人となり、相続分は基本的に均等とされています。今回のように子が2人であれば、それぞれ1/2ずつ相続することになります。
これは民法900条によって定められており、原則としては、介護したかどうかに関係なく「形式的な公平」が優先される仕組みです。
遺言書がない場合の実務的な調整は可能?
遺言書があれば、生前に「介護をしてくれた子に多く渡したい」といった意志を反映できますが、認知症と診断されている場合は、遺言能力がないとされるため、遺言書は無効と判断される可能性があります。
そこで次に考えられるのが、相続人間での遺産分割協議です。兄弟姉妹の合意があれば、「介護したから多く相続してほしい」といった内容で分けることも法的に可能です。
ただし、協議が成立しなければ、原則どおりの1/2ずつとなります。
「寄与分」で主張できるケースも
介護した子が法的に相続分を増やせる可能性があるのが寄与分の制度です(民法904条の2)。
寄与分とは、「被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人に対して、他の相続人より多くの相続を認める仕組み」です。
例えば、介護施設に入れずに自宅で何年も介護した、または介護のために仕事をセーブしていたなど、経済的・身体的・精神的な負担が明らかである場合に認められやすくなります。
家庭裁判所に調停や審判を申し立てることで、寄与分を主張することができますが、証拠(介護日誌、病院の記録、領収書など)の提出が求められます。
成年後見制度も要検討
認知症の父が今後、施設入所や財産管理が必要な場合、成年後見制度の利用も重要なポイントです。家庭裁判所に申し立てることで、財産管理をする「後見人」になれる可能性があります。
後見人は財産の使途を監督される立場になりますが、その記録は後に寄与分の証拠としても活用可能です。
まとめ:介護した子が多く相続するには合意か法的主張が必要
遺言書が書けない場合でも、介護した子が多く相続する道はあります。ただしそれは、「相続人間の話し合い」または「寄与分の法的主張」によってのみ実現できます。
争いを避けるためには、記録を残す・第三者の証言を確保する・早めに専門家に相談することが非常に重要です。
一人で悩まず、弁護士や司法書士、地域の無料相談窓口などを活用して、法的に整った形で親の意思や介護の貢献を反映させましょう。