同性婚に関する議論が進む中で、現行の民法や家族法が想定してこなかった関係性に、どのように法律が適用されていくのかは注目されるテーマです。特に「貞操義務」の解釈が、異性愛カップルとは異なる構造を持つ同性婚においてどのように適用されるかは、家族法・法哲学の重要な論点でもあります。
貞操義務とは何か:民法上の位置づけ
日本の民法において「貞操義務」は明文化されているわけではありませんが、判例や学説では夫婦の間に「互いに貞操を守る義務」があるとされており、これを破る行為(不貞行為)は離婚請求の理由になります。
不貞行為は一般に「自由な意思による配偶者以外との性交渉」と定義され、異性愛婚では性的関係の有無が重視されます。この背景には、子の認知や嫡出推定との関係性があります。
同性婚における貞操義務の解釈
現行法では同性婚は法的に認められていませんが、仮に法制化された場合、従来の「貞操義務」をどのように適用するかが問題となります。法律上の「不貞行為」を性交渉に限定する場合、身体的に異なる性別を前提とした基準が使えなくなるため、同性間の性的関係が同等の不貞と見なされるかが焦点になります。
海外では、同性婚を認める国の多くで、パートナーシップにおいても「性的忠実義務」が存在し、性的な裏切りとみなされれば離婚の理由になります。よって、日本でも同様の方向で再定義される可能性が高いでしょう。
子の認知・家族形成との関連性
異性愛の夫婦では、貞操義務は子どもの父性推定と密接に関係しています。一方、同性カップルでは自然妊娠の関係がないため、子の認知・嫡出性の問題は法的に別途扱われることになります。
同性カップルにおける子の法的保護は、特別養子縁組や代理出産、精子・卵子提供などの補完的制度の整備が前提となるため、貞操義務との結びつきはより倫理的・感情的側面が強くなると考えられます。
法哲学から見た貞操義務の再構築
同性婚の法制化により、「性別」を前提とした家族法の再構築が求められます。これにより、性行為の定義やパートナーシップにおける「忠実性」の意味合いも変化していくでしょう。
法哲学の視点では、「貞操」の定義を生殖的行為から感情的・関係的忠誠へと広げることが求められており、同性婚を契機に、家族法そのものの根本的な見直しが進む可能性があります。
まとめ:法の再構築が求められる新しい家族のかたち
「貞操義務」は今後、性的な行為に限定される概念ではなく、関係性の誠実さを包括する義務として捉え直される必要があります。同性婚の法制化が進む中で、法解釈や法哲学の領域でも新たな定義と枠組みが求められる時代に突入していると言えるでしょう。
制度上の整備とともに、社会全体で新しい価値観を受け入れ、適応していく姿勢が問われています。