離婚を検討する中で、「自分が相続した財産を配偶者と分ける必要があるのか」という疑問を抱く方は少なくありません。特に、実父の遺産など、自分だけが受け取った財産がどのように扱われるのかは、法律上明確な規定が存在します。この記事では、離婚時の財産分与と相続財産の関係を民法の観点から丁寧に解説します。
財産分与とは:婚姻中に形成した財産の清算
離婚に伴う財産分与は、民法第768条に規定されており、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を公平に分けることが目的です。これは「共有財産」と呼ばれ、通常、夫婦の収入、預貯金、不動産、動産などが対象となります。
一方、婚姻前から所有していた財産や、特定の事情で取得した財産は「特有財産」とされ、分与の対象にはなりません。
相続財産は「特有財産」に該当
民法第762条第1項によれば、相続によって取得した財産は、原則として配偶者と共有しない「特有財産」となります。つまり、実父の死亡によって単独で取得した遺産は、離婚時の財産分与の対象には含まれないのが基本的な考え方です。
この原則は、被相続人(=亡くなった人)が本人だけに与える目的で残した財産であることから、公平性の観点で配偶者に分ける必要がないとされているためです。
例外的に財産分与の対象になるケースも?
ただし、相続財産であっても次のようなケースでは、実質的に分与対象と判断されることがあります。
- 相続した財産を夫婦で共有・使用していた(例:相続した家で共同生活を送っていた)
- 相続財産を売却し、得た現金で共有財産を取得していた
- 夫婦の貢献が財産の維持・増加に寄与していた
このような事情がある場合には、「特有財産」であっても実質的に夫婦で形成した財産とみなされ、一部が分与対象になる可能性も否定できません。
実例で考える:実父の遺産が不動産だった場合
たとえば、実父から一戸建てを相続したが、配偶者とともにその家に住んでいたという場合、この不動産の使用実態や家計からの維持費負担などが問題になります。
仮に家計からリフォーム費や固定資産税が出されていた場合、配偶者の貢献があったと判断されることがあり、完全に「分与対象外」とはいえなくなることがあります。
財産分与を回避するために考えるべきこと
離婚を検討している段階で相続財産の取り扱いが不安な場合は、以下の対策が有効です。
- 財産の名義・出所を明確に記録しておく
- 共有財産との混同を避ける(例:相続資金を家庭の口座に入れない)
- 弁護士など法律の専門家に早めに相談する
場合によっては、離婚協議書や公正証書に財産分与の対象範囲を明記することで、後のトラブル回避につながります。
まとめ:相続財産は原則分与対象外だが例外もあり
結論として、実父の遺産などの相続財産は、原則として離婚時の財産分与の対象にはなりません(民法第762条第1項)。しかし、その財産の使用実態や夫婦の貢献度によっては、例外的に分与対象とされる可能性もあります。
適切な判断と対応のためには、事前に専門家に相談し、自身のケースに合った対策を取ることが重要です。