未成年者や被保佐人が法定代理人の同意なく行った贈与や契約が取り消された場合、相手方が善意であったとしても無条件に全額返還を求められるわけではありません。そこで鍵となるのが「現存利益」という概念です。本記事では、民法における現存利益の扱いと、贈与・有償契約それぞれのパターンでの返還義務について詳しく解説します。
現存利益とは?法的定義とその適用範囲
現存利益とは、未成年者や制限行為能力者が受け取った利益のうち、現在も存在している分、または換価されたものの残額を指します。民法第121条の2に基づき、取消された法律行為に基づく返還義務は、原則として現存利益に限られます。
たとえば100万円を贈与されたとしても、その後浪費等で消費してしまい、手元に40万円分しか残っていない場合は、この40万円のみを返還すれば足りるという理屈になります。
贈与契約における未成年者・被保佐人の返還義務
ケース①:未成年者が法定代理人の同意なくAに100万円を贈与した。
ケース②:被保佐人が保佐人の同意なくBに100万円を贈与した。
いずれのケースも、未成年者・被保佐人が取消権を行使することで契約は無効とされます。その際、AおよびBが善意かつ無過失である限り、返還すべき金額は「現存利益」に限定されます。したがって、A・Bに残る現存利益が40万円であれば、それ以上を返す必要はないとされます。
つまり、贈与の場合において善意の取得者が保持している利益の範囲でのみ返還が求められる点が重要です。
有償契約だった場合の扱い
次に、贈与ではなく有償契約(たとえば物品の売買やサービス提供)だった場合について見ていきます。この場合も取消がなされた時点で契約は無効とされますが、返還義務にはやや複雑な要素が加わります。
取消によって双方は原状回復義務を負いますが、相手方が善意であれば、未成年者・被保佐人側の返還義務も「現存利益の範囲内」に限られます。
たとえば、AとBが100万円で物品を売却し、その代金を受け取ったが、物品が消費・処分され、現存利益が40万円しか残っていなければ、返還すべきはその40万円のみとなります。
現存利益の判断基準と注意点
「現存しているか」の判断は、形式的な資産の有無にとどまらず、現金・物品・代替資産・生活費などの消費形態も含めて行われます。
また、浪費や詐欺行為があったと認定されると、たとえ善意であっても保護の対象外となる可能性があるため注意が必要です。つまり、行為能力制限者の保護と、相手方の善意のバランスが常に検討されるポイントとなります。
まとめ:現存利益の原則で返還義務は限定される
未成年者や被保佐人が同意なく行った契約が取消された場合、返還義務は現存利益の範囲に限られます。善意のAやBは、その時点で保持している利益に応じて返還すれば足り、過去に受け取った全額を返す義務はありません。ただし、有償契約の場合や悪意・過失がある場合は例外もあり、ケースごとの判断が求められます。
民法の基本原則を押さえて、適切な法的対応を理解しておきましょう。