冤罪事件として長年注目を集めてきた袴田巌氏の再審無罪により、刑事補償金として約2億円の支払いが認められました。このような大きな補償金に関して、もし本人が受け取る前に死亡した場合や、受け取った後に亡くなった場合、それは誰が相続するのか――そうした疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。この記事では、刑事補償金に関する相続の基本を、民法上のルールや過去の事例も踏まえて解説します。
刑事補償金とは?法的な位置づけ
刑事補償金とは、無罪が確定した被告人に対して、国がその身体拘束や不利益に対して支払う金銭補償です。刑事補償法に基づき、裁判所の決定により支払いが命じられます。
補償の対象はあくまで「本人」であり、精神的・身体的損害への慰謝的な意味を持ちますが、法的には財産権としての性質があり、相続の対象となります。
袴田氏が死亡した場合、刑事補償金はどうなる?
仮に袴田氏が刑事補償金の決定後、支払いを受ける前に死亡した場合でも、その補償金請求権は相続財産となり、相続人が請求することができます。実際に支払いが完了した後であれば、それは現金や預貯金と同様に遺産となります。
つまり、本人の生死にかかわらず、補償金の決定時点でその権利が発生していれば、相続手続きにおいて取り扱われます。
相続順位の基本:息子がいる場合はどうなる?
日本の民法では、相続人となる順番(法定相続順位)が明確に定められています。
- 第1順位:子(直系卑属)
- 第2順位:父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹
袴田氏に息子が1人いる場合、その息子が全額を単独で相続することになります。配偶者がいない、または既に亡くなっている場合は、他に法定相続人がいなければ、兄弟姉妹や姉(袴田秀子さんなど)には法的な相続権はありません。
例外として、遺言書がある場合には、その内容が優先されるため、姉に一定額を遺贈することも可能です。
相続と実際の支払い手続きの流れ
被相続人が刑事補償金を受け取る前に亡くなった場合、相続人は家庭裁判所での遺産分割協議や、相続人の確認を経て、正式に補償金の支払いを受けることになります。
相続人が複数いる場合は、共有財産として分割され、法定割合に従って分配されます。一方、相続放棄があると、その分は他の相続人に再配分されます。
過去の実例から見える法的解釈
過去にも刑事補償や国家賠償請求に関して、本人が死亡した場合にその権利が遺族に引き継がれたケースがあります。補償の趣旨が「個人の被った損害に対する賠償」であっても、その請求権自体は財産権とされ、相続可能な性質を持つと裁判所も判断しています。
例として、「布川事件」や「足利事件」でも、無罪確定後に補償金や国家賠償金が支払われ、その一部を遺族が受け取る例が見られました。
まとめ:刑事補償金は相続財産、息子がいれば姉には権利なし
刑事補償金は、無罪確定者に対する国家からの賠償ですが、その性質は明確な財産権です。よって、本人が死亡した場合も、相続人がいればその人に引き継がれます。袴田氏に息子がいるのであれば、法律上は息子が全額を相続し、お姉さんには相続権は発生しません。
ただし、遺言や遺贈によって意思を示していた場合は、それに基づいた分配も可能です。大きな補償金をめぐる相続は感情的な問題も絡みがちですが、まずは法的な枠組みを理解したうえで冷静に判断することが求められます。