交通事故や高所からの転落などで顔面に大きな損傷を負った人が、その後どのように治療を受け、生活を取り戻していくのか気になる方も多いのではないでしょうか。医療の進歩により、生存率が向上する一方で、後遺障害や社会的困難に直面する現実もあります。この記事では、重度の顔面外傷を負った後にたどる治療・リハビリ・社会復帰のプロセスについて、実例を交えて解説します。
重度顔面外傷とは？主な原因と症状
顔面外傷とは、外部からの強い衝撃により、顔の骨や軟部組織に損傷を受ける外傷を指します。重度の顔面外傷には以下のような症状が見られます。
- 顔面骨の多発骨折（頬骨、顎骨、眼窩など）
- 軟部組織の裂傷や欠損（唇、鼻、まぶたなど）
- 視覚・嗅覚・聴覚の障害
- 気道閉塞や出血による命の危険
原因の多くは交通事故、スポーツ外傷、労働災害、暴行などであり、時には顔面が原型をとどめないほどの損傷となることもあります。
救命と初期治療：まず命を守る対応
重度外傷の第一段階では、救命が最優先されます。顔面の出血は大量かつ止血が困難なことが多く、また気道確保が必要となるため、口腔外科、形成外科、耳鼻科、麻酔科などの連携が必要不可欠です。
初期手術では、骨折部の整復や仮固定、失われた皮膚・組織の洗浄・縫合などが行われます。感染のリスクも高いため、徹底した処置が求められます。
再建手術とリハビリの現実
救命後、外見や機能の回復を目的として「再建手術」が段階的に行われます。これには。
- チタンプレートやワイヤーを用いた骨再建
- 皮膚や筋肉の移植（皮弁形成）
- 眼球摘出や義眼挿入、歯科インプラントなどの補綴治療
こうした手術は1回で終わらず、数年にわたる通院・手術が必要です。また、表情筋や顎関節のリハビリ、嚥下訓練なども並行して行われます。
外見だけでなく、「食べる」「話す」「呼吸する」といった基本動作の回復も大きなハードルです。
精神的ケアと社会復帰支援
顔の損傷は外見の変化による自己否定感や社会的不安につながり、うつ病やPTSDを併発することが少なくありません。そのため、精神科や臨床心理士によるメンタルケアが極めて重要です。
また、就労支援や障害年金の申請、生活福祉資金などの制度を活用しながら、生活再建を目指す支援もあります。
近年では、顔面移植（フェイストランスプラント）など先端医療も研究・実用化が進んでおり、社会復帰の可能性が広がっています。
実際の症例と回復の過程
たとえば、工事現場で鉄骨が落下し、顔面に直撃した30代男性は、顔の半分以上の骨が損壊し、計10回以上の再建手術を受けました。治療期間は5年以上にわたり、現在も嚥下障害と義眼での生活を続けています。
また、交通事故で顔面を強打した女子大学生は、初期の腫れと出血で顔の判別が困難でしたが、2年かけて形成外科による再建を行い、マスクとメイクでほぼ日常生活を送れるまで回復したという例もあります。
まとめ
顔面に重度の損傷を負っても、命が助かればその後の医療と支援で機能回復や社会復帰が可能です。ただし、長期にわたる治療・リハビリ・精神的サポートが必要となり、患者本人と周囲の支援が大きな鍵となります。医療技術の進歩により「元通りにはならなくても、再び社会で生活できる」未来は、確実に実現しつつあります。