通勤中のバイク事故などでケガを負った場合、労災保険の対象になることがあります。しかし、相手方の自賠責保険や任意保険から治療費などを受け取っていると「二重取りになるので労災は使えない」と説明されるケースもあり、混乱する人が少なくありません。この記事では、通勤災害における労災と自動車保険との関係、申請時のポイントをわかりやすく解説します。
通勤中の事故は原則として労災の対象
労働者災害補償保険法(いわゆる労災保険)では、「通勤災害」も補償の対象として明確に規定されています。通勤災害とは、就業に関し、住居と職場の間の通勤経路上で発生したケガや事故を指し、バイクや自転車、徒歩、公共交通機関などすべてが対象になります。
今回のように「通勤中に原付バイクで事故に巻き込まれた」というケースは、まさに典型的な通勤災害に該当します。
相手方の保険から補償を受けた場合でも労災は使える
一部の事業所や担当者が「相手方の保険を使ったから労災は使えない」と説明することがありますが、これは正確ではありません。労災は相手の保険と“併用できない”のではなく、“二重に補償を受け取れない”という考え方になります。
つまり、まず労災で補償を受け、のちに政府が相手方の保険会社に対して求償する仕組みがあり、被災労働者が全額補償を重複して受け取ってしまうことがないよう調整されるだけです。
これは「損益相殺」と呼ばれる法的原則に基づいたものであり、被害者が損をする必要はありません。
実際の申請と注意点
労災を申請するには、勤務先の協力が必要になる場合がありますが、事業主が非協力的でも、労働基準監督署に直接相談して申請することが可能です。
必要な書類としては以下のようなものがあります。
- 様式第16号の5(通勤災害用療養補償給付たる療養の給付請求書)
- 事故状況のわかる書類(交通事故証明など)
- 診断書・通院履歴などの医療関連資料
また、相手方保険からすでに治療費などを受け取っている場合でも、その旨を記載して申請すれば、労災側で調整が行われます。
実例:労災と自賠責を併用したケース
実際に、通勤中に交通事故で足を骨折し、任意保険から治療費を一時的に受け取った後、労災を申請して通院中の賃金補償(休業補償給付)を受けた例も多数あります。治療費の支払先がどこであっても、労災申請は受理され、後日、支払済み分の調整が行われたというケースです。
このように、相手の保険利用=労災不可という誤解は多く見られますが、制度上は共存可能な仕組みになっています。
まとめ
通勤中のバイク事故などで相手方の自動車保険から補償を受けている場合でも、労災保険の申請自体は可能です。問題になるのは“補償の重複”であり、正しく申請すれば、必要な補償を受けながら調整が行われます。
職場や保険担当者から誤った説明を受けた場合でも、最寄りの労働基準監督署に相談し、自分の権利を確認することが大切です。