故人の人生を題材にして物語を創作したい――そんな思いから小説を書く人は少なくありません。特に親しかった親族の人生を、フィクションとして世に出したいと考えるのは自然な発想です。では、すでに亡くなった叔母をモデルに小説を書いた場合、そのご家族に許可を取る必要はあるのでしょうか?お金を支払う義務は?この記事では、肖像権・プライバシー・名誉権など法的な観点と、創作時に気をつけたい倫理的配慮について解説します。
故人の肖像権やプライバシー権はどうなる?
肖像権やプライバシー権は、生きている間にのみ認められる権利とされています。つまり、すでに亡くなっている人をモデルに小説を書くこと自体は、法的には原則自由です。
ただし、遺族(子や孫など)にとってその内容が著しく名誉を傷つける場合や、故人のプライバシーを暴くような内容であれば、遺族の「人格権」や「名誉感情」として保護されることがあります。
特に実名を出したり、特定できるような描写があると、問題になりやすくなります。
小説の中で実名を使わなければ問題ないのか?
実名を使用しなければ基本的には問題になる可能性は低く、フィクションとして創作の自由が認められやすくなります。
ただし、以下のような場合は要注意です。
- 登場人物の描写が明らかに特定の故人とわかるようになっている
- 家族関係やエピソードが一致し、実質的に実名と同様の効果を持つ
- 読者が故人を特定し、その名誉が毀損されたと感じる内容
このようなケースでは、名誉毀損やプライバシー侵害として遺族からクレームが入る可能性があります。
遺族に許可やお金を払う必要はあるのか?
法的には、小説のモデルに故人を使用しても、それ自体に「対価」や「許可」が必要なわけではありません。すでに故人の権利は消滅しており、遺族にも金銭的な請求権があるとは限りません。
しかし、遺族との人間関係や信頼を重視するのであれば、あらかじめ「モデルにさせていただきたい」と一言伝えることで、トラブルを避けることができます。
特に、物語が商業出版や映像化される場合は、後々の感情的な衝突を避ける意味でも、事前相談が望ましいと言えるでしょう。
表現の自由とその限界:創作と現実のバランス
小説はあくまでフィクションであり、表現の自由は日本国憲法によって強く保護されています。ただし、その自由にも一定の制約はあります。
裁判例では、フィクションであっても、特定個人が社会的信用を失うような内容であれば、損害賠償や差止めが認められる場合があるとされています。
アドバイス:モデルにしたくなる気持ちは大切にしつつも、物語としての加工を加え、実在性を薄める創作手法を取り入れると、安全性が高まります。
小説化の一例:どのように描けば問題にならないか
例1:叔母をモデルにしたが、名前・年齢・職業・家族構成をすべて変更。物語の舞台も架空都市に設定。
例2:叔母の人生のエピソードを参考にしつつ、複数人の実在人物の特徴を混ぜて一人の登場人物に集約。誰にも特定できないレベルまで抽象化。
このような方法であれば、法的リスクはかなり軽減され、安心して作品化できます。
まとめ:故人を題材にする際は配慮と創作の工夫が鍵
亡くなった親族をモデルに小説を書くことは、法律上の問題になる可能性は低いものの、遺族の感情や社会的評価に配慮することが大切です。
実名や特定可能な描写を避け、フィクションとしての工夫を凝らすことで、創作の自由と他者への敬意を両立させることができます。
もし心配な場合は、弁護士や出版関係者に事前に相談しながら進めるのも有効な選択肢です。