相続放棄が認められた後も、被相続人の自宅から引越しをする際に「何を持ち出してよいのか」は多くの方が悩むポイントです。特に、生前に買い与えられた家具や自分の部屋にあったエアコンなどを持ち出すと、法的に問題があるのではと不安になることもあります。本記事では、相続放棄後の動産の取り扱いや単純承認との関係について詳しく解説します。
相続放棄とは何か?
相続放棄とは、被相続人の財産や負債を一切相続しない意思表示を家庭裁判所に届け出ることで、法的には最初から相続人でなかったことになります。放棄が受理されると、その相続に関して権利も義務も一切発生しません。
そのため、放棄後に被相続人の財産を事実上取得したり使用したりすると、「単純承認(相続する意思があるとみなされる行為)」と見なされるリスクが生じます。
単純承認とみなされる行為とは?
民法921条では、次のような行為が単純承認と見なされると定められています。
- 相続財産の全部または一部を処分した場合
- 相続人が相続財産を隠匿、消費、悪意で財産目録に記載しなかった場合
- 相続人が自己の財産と混合した場合
したがって、相続放棄をした人が「被相続人の財産」であることが明らかなものを持ち出したり処分した場合は単純承認とみなされ、相続放棄の効力が失われる可能性があります。
生前贈与品や私物はどう扱われる?
ただし、持ち出そうとしているものが「生前に明確に譲渡された個人の所有物」であれば、それは相続財産には含まれないと考えられます。たとえば。
- 自室に設置されたエアコンが被相続人から贈与されたものである
- テレビやクローゼットが自分で購入した、または贈与されたものである
このようなケースでは、それらを持ち出しても単純承認には該当しないと考えられます。ただし、「贈与された」と明確に説明できる状況証拠(日記、メッセージ、第三者の証言など)があると望ましいでしょう。
領収書がない場合の対応方法
領収書や購入履歴がない場合でも、物の使用状況や保管場所、贈与の経緯を詳細にメモしておくことが有効です。また、引越し時には写真を撮影し、引き取る理由を書面に残すことで、後のトラブルを回避しやすくなります。
可能であれば、相続放棄の弁護士や司法書士に状況を説明し、持ち出し可能か確認するのも一つの方法です。
トラブルを防ぐための実務上のポイント
- 持ち出し予定の物品リストを作成する
- 各物品が「生前贈与」である証拠や説明を書面化
- 被相続人の通帳や重要書類、金銭類には手を出さない
- できれば第三者(親族や管理会社等)立ち会いのもとで荷物整理を行う
このように準備することで、あとから「相続財産を取得した」と誤解されるリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
相続放棄後でも、自分の私物や生前に譲渡されたとされる家具を持ち出すこと自体は問題ない可能性がありますが、「単純承認とみなされない」ためには慎重な対応が必要です。書面の準備や第三者の確認などを通じて、法的リスクを回避しながら安心して引越しを進めましょう。