高齢化が進む中、親の財産管理や将来の判断能力低下に備えた「任意後見制度」に関心が高まっています。特に認知症などがまだ発症していない段階で契約を結ぶことの是非については、多くの方が悩むポイントです。本記事では、80歳の親と任意後見契約を結ぶメリットや注意点、制度が広く普及していない理由について解説します。
任意後見制度とは?
任意後見制度とは、本人が将来判断能力を失ったときに備えて、あらかじめ信頼できる人(任意後見人)に財産管理や生活支援の権限を委ねる契約です。契約は公証人役場で公正証書として作成し、実際に発動されるのは本人の判断能力が低下したと医師に診断され、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからです。
つまり、元気なうちに準備し、必要になったときに効力が生じる「備えの制度」です。
80歳でも任意後見契約は意味がある?
結論から言えば、認知機能が健全なうちであれば何歳であっても契約は有効で意味があります。80歳という年齢だからといって遅すぎるということはなく、むしろ判断能力がある今のうちに、家族との意思疎通をしっかり行いながら契約内容を決められるという点で、適したタイミングとも言えます。
たとえば、「将来、入院時の手続きや施設の契約を子どもに任せたい」「銀行の手続きをスムーズにしておきたい」など、具体的な不安があれば制度を活用する価値は高いです。
任意後見があまり普及していない理由
任意後見制度は2000年から始まった制度ですが、実際に利用されている件数は多くありません。その理由として、以下の点が挙げられます。
- 制度の認知度が低い:法定後見制度に比べて、知名度がまだ高くありません。
- 手続きが煩雑:契約には公証人役場での作成、家庭裁判所での監督人選任などが必要です。
- 費用がかかる:公正証書作成費用(約2万円〜)に加え、任意後見監督人への報酬(月1〜2万円程度)が発生します。
ただし、これらの点は信頼できる司法書士などの専門家に相談することで解消可能です。
任意後見契約の活用事例
実際に任意後見契約を結んだ家庭の一例をご紹介します。
80歳の母親が「将来の入院や介護施設の契約を子どもに任せたい」と考え、元気なうちに長男と契約を締結。判断能力が低下した後も、長男が医療契約や口座管理をスムーズに行えたことで、本人も家族も安心して過ごせたというケースがあります。
このように、任意後見契約は事前の備えとして大きな安心材料となります。
任意後見契約を結ぶ際のポイント
契約を進めるうえでのポイントは以下の通りです。
- 信頼できる相手を選ぶ:基本的には家族(子ども)が選ばれるケースが多いです。
- 契約内容を明確にする:財産管理、医療契約、施設入所の代理など、具体的な範囲を定めましょう。
- 定期的な見直しをする:契約後も、本人の意向や状況に応じて更新や確認を行うことが大切です。
また、将来的に信託や遺言との併用を検討することもおすすめです。
まとめ
80歳であっても、判断能力があるうちに任意後見契約を結ぶことは非常に有効です。認知症などが発症してからでは法定後見制度しか使えなくなり、本人の意向が反映されにくくなるため、「今のうち」が最良のタイミングとも言えるでしょう。
任意後見制度の活用には準備と手続きが必要ですが、将来の安心を得るためには十分な価値があります。制度について不明な点がある場合は、司法書士や弁護士など専門家に相談しながら進めることをおすすめします。