弁護士による横領被害は本来あってはならないことですが、現実には依頼者の金銭が不適切に使用される事例も存在します。そうした被害に対して、日本弁護士連合会や各弁護士会は「依頼者見舞金制度」を設けており、一定の条件を満たす場合に金銭的な補填を受けられる仕組みがあります。この記事では、制度の概要や支給額の目安、申請方法について解説します。
依頼者見舞金制度とは?
「依頼者見舞金制度」は、弁護士の不正行為により依頼者が損害を被った場合に、弁護士会が一定の見舞金を支給する制度です。法律上の強制ではなく任意の補填制度ですが、弁護士会が信頼回復と被害救済のために設けている救済措置です。
この制度は刑事責任や民事上の返還請求とは別に、行政処分や懲戒とは関係なく運用されます。対象となるのは原則として、弁護士が預かっていた金銭を私的に流用・消失させたなどの明確な横領行為です。
支給金額の上限と配分方法
支給額には明確な上限があります。1人の弁護士に対する見舞金総額は最大2,000万円、被害者1人あたりの支給額は最大500万円とされており、その範囲内で調整されます。
たとえば、被害者が複数いる場合、被害額の大きさや申請順などに応じて、支給金額が個別に調整される可能性があります。また、年間支給の予算も決まっており、多くの案件が発生した年は、実際の支給額が制限されることもあるようです(年間予算:1億円程度)。
申請手続きと必要書類
申請は基本的に、各地の弁護士会に対して直接行う形となります。必要書類には以下のようなものがあります。
- 被害事実を示す証拠(領収書、振込明細など)
- 申立書(指定フォーマット)
- 被害者の本人確認書類(身分証、住民票など)
申請の受付後、弁護士会内部の審査委員会が調査を行い、認定されれば支給が決定します。手続きには数ヶ月かかることもあるため、早めの申請が望ましいです。
実際の支給事例と傾向
制度の運用状況については公表が限定的で、個別の支給額や件数は公開されていないことが多いです。しかし、実際に見舞金を受け取ったという事例報告も複数あり、「数十万円~500万円の間」で支給されるケースが一般的です。
例えば、弁護士に対する損害賠償請求が困難であった女性が、300万円の見舞金を支給されたという事例が報道されたこともあります。配分は被害内容や金額、被害者の人数により大きく左右されます。
補填制度以外の救済手段
依頼者見舞金制度は補填額に限りがあるため、全額の回復を目指すには別途、民事訴訟や刑事告訴なども検討する必要があります。
特に横領が重大な場合、被害届の提出や刑事告訴によって、弁護士の刑事責任を追及し、詐取金の一部返還を目指すことが可能です。また、場合によっては弁護士会が懲戒処分を行うこともあります。
まとめ
弁護士による横領被害に遭った場合、依頼者見舞金制度は被害回復のための重要な救済手段となります。ただし支給には上限や審査基準があるため、制度の仕組みを理解し、早めの対応を心がけることが大切です。証拠の保全と適切な相談先の選定を行い、泣き寝入りせずに権利を主張しましょう。