警察署に行くと「告訴でも被害届でも結果は同じです」と言われることがありますが、実際のところ、この2つには法律上の明確な違いがあります。この記事では、刑事訴訟法に基づく定義や手続きの違いをもとに、告訴と被害届の実情をわかりやすく解説します。
告訴と被害届の基本的な違い
告訴とは、犯罪の被害者や法定代理人が捜査機関に対して「犯人を処罰してほしい」と求める法的行為です(刑事訴訟法第230条)。これに対し、被害届は単に「犯罪被害に遭いました」という届け出に過ぎません。
つまり、告訴は「処罰の意思」が伴う意思表示であり、被害届にはそのような意思は含まれないというのが法律上の大きな違いです。
警察実務では「ほぼ同じ」に扱われる?
実務上、警察は告訴状でも被害届でも事件の受理後に捜査を行うことが一般的です。そのため、警察官が「同じようなものです」と案内することがあります。
しかし、告訴状が正式に受理されると、刑事訴訟法上の「告訴」となり、検察官は不起訴処分などの理由について告訴人に通知する義務が生じるなど、一定の権利が発生します。
告訴が必要な犯罪とその期限
性犯罪や軽犯罪の一部は、告訴がなければ起訴できない「親告罪」に該当します。たとえば、名誉毀損罪(刑法230条)や侮辱罪(231条)は告訴がなければ起訴できません。
また、告訴には期限があります。刑訴法235条によれば「犯人を知ってから6か月以内に行う必要がある」とされています。遅れると告訴の効力は認められません。
告訴の取り消しとその影響
一度告訴すると、それを取り下げることも可能です(刑訴法238条)。ただし、起訴後には取り下げても刑事手続が続行されるケースもあるため、慎重な判断が求められます。
一方で、被害届はそもそも「処罰意思」がないため、撤回しても法的効力に大きな影響はありません。
告訴・被害届の具体例
例1:自転車を盗まれた場合、被害届を出すだけでも警察は捜査を行います。ただし、犯人を厳罰に処してほしいという意思があるなら告訴状を提出する方が適しています。
例2:名誉毀損でSNS上で侮辱を受けた場合は、6か月以内に告訴状を提出しなければ起訴できないことがあります。
まとめ:告訴と被害届の違いを理解し、状況に応じて使い分けを
一見すると似ている告訴と被害届ですが、法的効果・当事者の権利・起訴の条件においては明確な違いがあります。軽微な事件なら被害届で十分な場合もありますが、確実に処罰を求めたいなら告訴状の提出が望ましいです。
警察の窓口で案内される説明だけでなく、自分自身で違いを理解し、適切な対応を選択しましょう。