高齢の親が施設に入居したあと、使われなくなった実家や借地権を売却し、今後の生活資金に充てたいと考えるケースは少なくありません。今回は、90歳の母親から娘が不動産売却を委任される場合の実務と法的なポイントについて解説します。
委任状による不動産売却の基本
まず、不動産の売却手続きにおいて本人以外が手続きを進めるには、公的に有効な委任状が必要です。この委任状により、代理人が売買契約の締結・登記の手続き・支払の受領などを行うことが可能になります。
実務上は、委任状の作成とともに印鑑証明書の添付が求められることが多く、より確実性を求める場合は、公正証書による委任状の作成がおすすめです。
委任状の有効性と認知症リスク
委任状の有効性は、作成時に本人の意思能力があるかどうかに大きく左右されます。つまり、署名・捺印の時点でしっかりと内容を理解している状態でなければ、後から無効とされる可能性があります。
また、委任状作成後に認知症が進行しても、それまでに作成された委任状は引き続き有効とされるケースが多いですが、万一トラブルになった際の証明責任を考えると、公証役場での作成が非常に安心です。
公正証書による委任状作成の流れ
公正証書で委任状を作成する場合、以下の手順を踏みます。
- 公証役場に事前相談(予約制)
- 本人の意思確認と本人確認書類(身分証・印鑑証明)の提出
- 公証人との面談(施設訪問可の場合あり)
- 委任事項の確認と署名・捺印
この方法で作成された委任状は、法的効力が強く、第三者からの信頼性も高いため、不動産売却手続きにも非常に有用です。
借地権の売却に必要な手続き
借地権付きの物件を売却する際には、地主の承諾が必要です。承諾方法には以下のようなものがあります。
- 承諾書の取得
- 名義変更料(承諾料)の支払い
この手続きの際にも、委任状を用いることで代理人が地主とやり取りすることができます。ただし、地主との信頼関係や交渉内容によっては本人出席を求められることもあるため、事前に相談しておくと安心です。
任意後見との違いと費用面
任意後見制度を利用すれば、将来的に本人が判断能力を失ったときにも継続的な法的代理が可能になります。ただし、登記や家庭裁判所への申し立て、専門家報酬など時間と費用がかかるため、避けたいという方も多いでしょう。
その点、委任状での対応は手軽かつ即時性があるため、短期的な手続きや将来の判断能力に不安がある状況において、現実的な選択肢となり得ます。
まとめ:家族の思いを円滑に実現するために
不動産売却は法律や手続きが複雑なため、専門家との連携が非常に重要です。特に高齢の親の財産処分に関わる場合、法的な有効性と本人の意思尊重を両立させることが求められます。
今回のように母の生活のために実家を売却したいという思いがある場合は、公正証書による委任状の作成を通じて、法的にも安心な形で実行に移すことができるでしょう。時間や費用を抑えつつも、備えを整えることで、今後の手続きをスムーズに進められます。