近年、防犯カメラの普及により、エレベーターやマンションの共用部で発生するトラブルが可視化されるケースが増えてきました。とくに住民間でのトラブルや暴行が記録されていたとしても、「なぜか加害者が逮捕されない」「刑事処分に至らない」といった事例に遭遇し、不安や疑問を抱く方も少なくありません。この記事では、防犯カメラの映像があるにもかかわらず、加害者が逮捕されないケースがある理由や、法的な対応について詳しく解説します。
暴行事件でも逮捕されないことがあるのはなぜ?
暴行罪は、刑法第208条に規定されており、「暴行を加えた者は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、拘留または科料に処する」とあります。しかし、暴行=必ず逮捕とは限りません。
暴行事件で逮捕されるかどうかは、「現行犯か否か」「逃亡や証拠隠滅の恐れがあるか」「被害者が被害届を出しているか」など、複数の要素が判断基準となります。たとえば、防犯カメラに映っていても、被害者が被害届を提出しない限り、警察が動かないこともあります。
映像証拠があっても逮捕や起訴に至らない理由
エレベーター内の映像は重要な物証になりますが、それだけでは不十分なケースもあります。たとえば、以下のような理由により、事件化されないことがあります。
- 加害者と被害者の間で口論があり、どちらが先に手を出したか曖昧
- 防犯映像に音声が記録されていないため、脅迫や威嚇があったか判断できない
- 加害者が謝罪・示談に応じたことで被害届が取り下げられた
このように、映像があってもその他の状況証拠や供述内容の整合性が重視されます。
逮捕されない場合の民事対応と被害者のとるべき行動
刑事事件にならないからといって、泣き寝入りする必要はありません。被害者には民事訴訟によって損害賠償請求を行う権利があります。暴行による精神的損害や治療費などを請求することが可能です。
また、管理会社やマンションの管理組合に対し、加害者への注意喚起や再発防止策を求めることも現実的な対処法です。映像を証拠として共有することで、第三者機関としての対応を促すことができます。
実際の事例:防犯カメラ映像が決め手になったケース
2022年、東京都内のマンションで起きた暴行事件では、エレベーター内での被害者の転倒シーンが明確に映っていたことから、加害者が書類送検されたという報道がありました。ただし、逮捕には至らず、書類送検→略式起訴→罰金刑という流れでした。
このように、暴行の態様が軽度と見なされた場合や、被害者が軽傷であると判断された場合、実刑ではなく行政罰で済まされることもあります。
まとめ:証拠があっても対応は多岐にわたる
エレベーター内での暴行が防犯カメラに記録されていたとしても、逮捕されないことは十分にあり得ます。刑事手続きに進むかどうかは、証拠だけでなく、被害届の有無、当事者の供述、示談の成立など、さまざまな要素が絡んできます。
万が一、自分や知人が被害に遭った場合は、まず速やかに警察への相談と証拠の確保を行い、必要に応じて弁護士に相談するのが最も確実な方法です。法的な知識と適切な対応を持つことで、自分の身を守ることができます。