高齢化社会の進展により、遺産相続の場面で「成年後見制度」が関係するケースが増えています。特に、親族が後見人となり、同時に相続人でもある場合は、手続きに慎重さが求められます。本記事では「親族後見人がいる場合の遺産分割協議」について、法的視点からわかりやすく解説します。
成年後見人と相続人が同一人物の場合に起こる「利益相反」
相続手続きにおいて、被後見人(この場合、判断能力のない配偶者)も相続人であるため、後見人が遺産分割協議に出席します。
しかし、後見人が他の相続人と同一人物である場合、後見人としての立場と相続人としての立場が衝突する「利益相反」が発生します。これは、本人(被後見人)に不利益となる可能性がある行為を、後見人が主導することになるため、法律上問題となります。
利益相反が発生した場合の正当な手続き方法
このような場合、家庭裁判所に「特別代理人選任の申立て」を行うことが必要です。これは、後見人が相続人として遺産分割に関与する際に、第三者的立場の代理人が被後見人の権利を守るために必要な手続きです。
特別代理人が選任されることで、利益相反の問題を回避し、法的に有効な遺産分割協議が行えるようになります。
特別代理人の申立て方法と必要書類
申立ては、後見人が家庭裁判所に対して行います。必要書類には以下が含まれます。
- 申立書(家庭裁判所所定様式)
- 遺産の内容と分割案を記載した書類
- 相続関係説明図
- 戸籍謄本・登記簿謄本などの証明書類
申し立て後、家庭裁判所が適切と判断すれば、通常1〜2ヶ月程度で選任が完了します。
特別代理人による遺産分割協議の流れ
特別代理人が選任されると、被後見人(このケースでは妻)の代理人として、他の相続人とともに遺産分割協議に参加します。
協議が成立した場合には、全員が署名捺印した「遺産分割協議書」を作成し、これに基づき相続登記や預金解約などの手続きを行うことができます。
実例:親が被後見人、長男が相続人兼後見人だったケース
ある家庭では、父が亡くなり、母が認知症のため長男が成年後見人を務めていました。相続人は母と子3人。長男は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、第三者弁護士が代理人として協議に参加しました。
結果、全員が納得できる形で協議が成立し、法的にも有効な手続きを経てスムーズに相続が完了しました。
まとめ:適切な法的手続きを踏めばトラブルは防げる
成年後見人が相続人を兼ねている場合は、必ず家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。これを怠ると、遺産分割協議自体が無効となり、将来的な相続トラブルの原因となる可能性も。
手続きは煩雑に思えるかもしれませんが、弁護士や司法書士のサポートを受けることでスムーズに進めることができます。安心して相続手続きを進めるためにも、法的なプロセスを正しく理解しておくことが大切です。