盗撮事件と執行猶予:なぜ実刑にならないのか?日本の刑事司法の仕組みと量刑の実態

日本では、盗撮行為が摘発されても「執行猶予付きの判決」で刑務所に収監されないケースが目立ちます。一見すると軽く処理されているように感じるかもしれませんが、そこには刑法や司法制度の運用方針が大きく関係しています。この記事では、盗撮事件に対する刑罰の実態や、なぜ執行猶予になるのか、その割合や理由について詳しく解説します。

盗撮はどのような犯罪か?

盗撮行為は多くの自治体で「迷惑防止条例違反」に該当し、都道府県によっては刑事罰として処罰されます。刑罰の上限は「懲役6か月以下または罰金50万円以下」などと定められており、比較的軽微な犯罪と位置づけられる傾向にあります。

例えば東京都の迷惑防止条例では、「正当な理由なく人の衣服の中などを撮影する行為」は処罰の対象となり、常習的であったり悪質性が高い場合は厳罰化されるケースもあります。

執行猶予とは?実刑との違い

執行猶予とは、「一定期間中に再犯がなければ刑の執行を猶予し、その期間を無事に過ごせば実際に刑務所に入らずに済む」という制度です。初犯や反省の態度が認められる場合などに適用されやすく、社会復帰のチャンスを与える目的があります。

つまり、裁判で有罪判決を受けていても、実刑(刑務所に行く)とは限らず、条件付きで自由を与える制度がこの執行猶予です。

盗撮で実刑になるのはどんなケースか

以下のような要因があると、実刑判決となる可能性が高まります。

  • 再犯である:過去に同様の事件を起こしている
  • 常習性が高い:盗撮機器を隠していたり、大量の画像が保存されていた
  • 反省の意思がない:供述が否認的であったり、被害者への謝罪がない
  • 被害が深刻:ネット拡散などで二次被害が出た場合

一方、初犯であり反省の態度が強く示され、示談が成立しているようなケースでは、執行猶予付き判決になることが多いです。

実刑率はどのくらい?

法務省の公開データや裁判傍聴記録を分析すると、迷惑防止条例違反の中でも「盗撮」に関しては、約80~90%以上が執行猶予付きの判決であることが多いです。特に初犯の場合は、ほぼ確実に実刑は回避される傾向にあります。

実刑率は低いですが、それでも「前科」が付くことには変わりなく、社会的信用を失う、就業や転職に制限がかかるなどの深刻な影響があります。

なぜ実刑ではなく執行猶予が多いのか?

刑法の本質には「更生の機会を与える」という理念があります。特に非暴力犯罪や被害者との示談が成立している場合には、社会的制裁や反省を評価し、再犯を防ぐことを重視するため、執行猶予が選択されやすいです。

また、日本の刑務所は受刑者数が減少傾向とはいえ、収容リソースが限られており、初犯の軽微な犯罪者に対してはなるべく刑務所に収容しない政策が採られています。

被害者側から見た課題と今後の動向

被害者からすると、「すぐ社会復帰してしまうのは納得いかない」と感じることもあります。近年は性的同意やプライバシー保護の観点から、条例強化や法改正が進んでおり、2023年には刑法に新たに「盗撮罪」を新設する動きも見られました。

これにより、より厳格な対応が可能になり、今後は悪質なケースでは実刑判決が増える可能性があります。

まとめ:刑罰の目的と社会的視点から考える

盗撮事件において実刑が下されにくいのは、「更生可能性の評価」「初犯か否か」「被害者との示談成立」など、複数の要因に基づいて裁判所が判断しているためです。犯罪の抑止だけでなく、社会復帰や再犯防止といった視点が刑罰の目的に含まれていることを理解することが大切です。

一方で、被害者の権利保護や再犯リスクへの対応も重要であり、今後の制度改善や運用方針の見直しが注目されています。

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