自己破産は借金を免除してもらえる強力な法的手段ですが、それと同時に厳格な調査や財産管理の対象にもなります。特に破産前の預貯金や資産の移動は、「免責不許可事由」に該当する可能性があり、慎重な取り扱いが求められます。本記事では、住宅ローン債務者が自己破産を検討する際に、家族間での財産移転が法的に許されるかを中心に解説します。
自己破産と財産の取り扱い
破産手続においては、債務者の財産は「破産財団」として破産管財人により管理され、債権者への平等な配当が原則です。現金・預金・不動産・車・有価証券など、20万円を超える価値があるものは基本的に処分対象となります。
そのため、破産手続前に自分の財産を第三者の口座に移して隠す行為は、「財産隠し」と見なされ、免責(借金の帳消し)が認められない可能性があります(破産法第252条第1項4号)。
財産の名義変更や配偶者口座への送金のリスク
例えば、自己破産申立人が破産直前に500万円を配偶者名義の口座に移していた場合、形式的に名義が移っていても「実質的に本人の財産」と判断されるリスクがあります。
裁判所や破産管財人は、財産の動き・通帳記録・使用目的などから実態を調査します。たとえ贈与のつもりでも、破産直前である場合は「債権者を害する目的での財産処分」として問題視されるおそれがあります。
離婚して財産を移した場合はどうか?
仮に離婚して財産分与として500万円を配偶者(元妻)に渡した場合でも、破産手続の中で不当な財産移転として否認される可能性があります(破産法第162条)。
特に、形式的な離婚であって実態として夫婦関係が継続していたり、再婚を予定していた場合には、裁判所から免責不許可や詐害行為取消請求を受けるおそれが高まります。
正当な財産処分とそうでないケースの違い
破産手続においても、生活に必要な一定の財産(99万円以下の現金や家具など)は保有が認められています。一方で、破産申立ての直前に行う高額な財産移転は、合理的な理由がない限り問題となります。
たとえば以下のようなケースは「正当な支出」とされることがあります:
- 家賃や生活費の支払い
- 治療費など急な医療支出
- 弁護士費用の支払い
一方、以下は典型的な問題例です。
- 家族名義の口座に現金をまとめて送金
- 高額な買い物をして形を変えて現金を隠す
- 形式的な離婚をして再婚を前提に財産を分与
自己破産は正しい手順で行うことが重要
破産手続では裁判所が書類や通帳の履歴を精査し、虚偽がないか厳しく調査します。財産の隠匿や不実の報告が明らかになれば、免責が許可されず借金が残ってしまうばかりか、詐欺破産罪(刑事事件)として罰則を受ける可能性もあります。
疑義のあるケースでは、破産申立て前に弁護士に相談し、正しい方法で債務整理を進めることが強く推奨されます。
まとめ
自己破産前に家族に預貯金を移す、離婚して財産を配偶者に移すといった行為は、法律上は「財産隠し」や「詐害行為」として扱われる可能性が高く、結果的に免責不許可や刑事罰の対象になることがあります。借金を整理する際は、合法的かつ正当な手続きで進めることが最も確実な道です。専門家の助言を得ながら、慎重に対応しましょう。