相続の問題は人間関係や感情が複雑に絡み合うテーマです。とりわけ養子縁組をしている場合、実親との関係や遺産の分配に関して不明確な点が多く、トラブルの原因になりがちです。この記事では、養子縁組をしている人が亡くなった際の相続の仕組みと、実親に遺産を渡さないための具体的な方法について解説します。
普通養子縁組と法定相続の基本
日本の民法では、普通養子縁組をした場合、養親との間に法律上の親子関係が成立します。一方で、実親との親子関係も残ります。つまり、養子となった本人が亡くなった場合、法定相続人は以下のようになります。
- 第1順位:配偶者および子(直系卑属)
- 第2順位:両親(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹
質問のように配偶者・子ども・兄弟姉妹がいない場合、第2順位の実親と養親の両方が法定相続人になります。つまり、実親と養親が共に相続人として遺産を受け取る権利を持つのです。
実親に遺産を渡さないことは可能か?
可能です。実親に遺産を一切渡さないようにするには「遺言書」を適切に作成することが有効です。民法では「遺言により自由に財産を処分できる」ことが認められており、相続人ではない第三者や特定の人だけに遺産を残すことができます。
ただし、法定相続人には「遺留分(最低限の相続割合)」が保障されています。しかし、直系尊属(親など)だけが相続人である場合、遺留分は法定相続分の1/3に限定されるため、かなり抑えることが可能です。
遺言書で実親の遺留分も制限する方法
実親に「1円たりとも遺産を渡さない」と考える場合、次の2つの対策が考えられます。
- 遺留分の放棄を家庭裁判所で申立てる:相続開始前に実親が遺留分を放棄することで、完全に排除できます。
- 遺留分減殺請求を前提にリスク管理:遺留分を侵害する遺言であっても、実親が請求しなければそのまま通ります。よって、実際に訴えられるかどうかの見極めも必要です。
ただし、これらはリスクと手間が伴うため、弁護士に相談のうえで対処するのが安心です。
遺言書作成の際の注意点
有効な遺言書とするためには、自筆証書遺言の場合は全文を本人が手書きで作成し、日付と署名・押印が必要です。最近では「法務局による保管制度」も活用できるため、紛失や改ざんのリスクを防ぐことが可能です。
また、公正証書遺言であれば法的により強固な効果を持ち、第三者とのトラブルのリスクを最小限に抑えることができます。
養親への遺産分配の希望がある場合の工夫
養親と良好な関係で、遺産のすべてを養親に相続させたいと考える場合は、遺言でその旨を明記しましょう。そうすることで実親の取り分を最小限に抑え、養親に遺産を集中させることが可能になります。
また、遺言執行者を指定しておけば、手続きがスムーズに進み、意図した相続が確実に実現されやすくなります。
まとめ:実親に遺産を渡さないためには法的準備がカギ
養子縁組をした場合でも、実親には法定相続権が残ります。しかし、遺言書の作成と遺留分対策を講じることで、実親に遺産を渡さない選択肢を取ることは可能です。誤解やトラブルを防ぐためにも、遺言の内容は法的に有効な形式で作成し、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。