インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損に悩む方にとって、発信者情報開示請求は重要な手段のひとつです。しかし、その目的や手続きの流れ、そして開示請求を行わずに訴訟できるケースなどについては、一般にはあまり知られていません。この記事では、開示請求の実態と誹謗中傷に対する正しい対応方法を法律実務の観点から解説します。
発信者情報開示請求とは何か?
発信者情報開示請求とは、匿名で誹謗中傷を行った人物の情報(IPアドレスや氏名・住所など)を、プロバイダやSNS運営会社に対して法的に開示させる手続きのことです。これは、民事訴訟(損害賠償請求など)や刑事告訴を行う前提として、加害者の特定が必要な場面で用いられます。
例えば、X(旧Twitter)での名誉毀損投稿があった場合、まず投稿日時とアカウントを特定し、Twitter社→接続プロバイダへと段階的に開示請求を進めていく形が一般的です。
開示請求の法的根拠と手続き
開示請求は、改正プロバイダ責任制限法(2022年施行)に基づき、簡易迅速化が進められました。現在では「非訟手続」によって裁判所を通じて開示を求める形が基本です。
- 第1段階:コンテンツプロバイダ(SNSなど)に発信者情報の開示を請求
- 第2段階:接続プロバイダに対して氏名・住所などを請求
この2段階を経て、ようやく実名で訴訟提起できる状態となります。なお、仮処分や民事訴訟により同様の情報を得る方法もあります。
発信者が既に分かっている場合は開示請求不要?
発信者の氏名・住所が既に判明している場合には、開示請求を経る必要はありません。たとえば、職場や学校内の人物が本人名義でSNS等に中傷投稿をしているケースでは、直接的に損害賠償請求や名誉毀損による民事訴訟を起こすことが可能です。
ただし、その人物がなりすまし等をしている場合や、書証で裏付けが取れない場合は、やはり開示請求で法的に証明する手続きが必要になる場合があります。
誹謗中傷にあたる基準とは?
インターネット上で名誉毀損や侮辱が認められるためには、次のような要件を満たす必要があります。
- 特定の個人が識別できる表現であること
- 社会的評価を下げる内容であること
- 公共性・公益性・真実性がないこと
つまり、単なる意見や感想ではなく、事実として虚偽の内容を拡散したり、悪質な侮辱を繰り返すなどの行為が該当します。
実際の事例と注意点
たとえば、「○○高校の教師・山田が女子生徒にわいせつ行為」などといった投稿が匿名でなされた場合、名誉毀損に該当しうる重大な内容です。このとき、投稿者を特定するには、開示請求によって接続元の契約者情報を入手する必要があります。
また、投稿が削除されていたり、接続情報の保存期間(通常3〜6ヶ月)を過ぎていたりすると、開示請求が困難になるケースもあるため、早期の対応が重要です。
まとめ:開示請求と訴訟は目的に応じて使い分けを
発信者情報開示請求は、ネット上の誹謗中傷に対して発信者を特定し、訴訟や損害賠償請求につなげる重要なステップです。ただし、発信者の情報が既に分かっている場合や、相手が明確に判明している場合には、開示請求をせずに直接訴えることも可能です。
弁護士に相談しながら、状況に応じた対応を選ぶことで、より適切な法的措置が取れるでしょう。投稿内容の保存やログの確保も、証拠保全の観点から非常に重要です。