占有離脱物横領罪における不法領得の意思と利用処分意思の関係を理解する

刑法254条に規定される占有離脱物横領罪は、拾得物や遺失物など、占有を離れた物に対する横領を処罰する規定です。本稿では、この罪の成立において「不法領得の意思」とその具体的内容、特に「利用処分意思」が必要かどうかを考察します。

占有離脱物横領罪の基本構造

本罪の構成要件は、占有を離れた他人の物を横領することです。重要なポイントは「占有離脱物」と「横領」という用語の理解にあります。占有離脱物とは、たとえば落とし物や忘れ物のように、占有者の意思によらず占有が失われた物を指します。

一方で「横領」は、自己の占有に属する物について、不法に領得する行為とされるのが一般的な解釈です。ただし、占有離脱物については、第三者が取得した場合にも処罰対象となるため、「不法領得の意思」の存在が刑罰の根拠とされます。

不法領得の意思とは何か

「不法領得の意思」とは、他人の物を無断で自分のものとする意思を指しますが、その内容は広く解され、「占有を排除し、自己のために利用または処分する意思」とされます。この理解は判例および通説において支持されています。

たとえば、拾った財布を交番に届けず、自分のものとして使用した場合、その行為には「不法領得の意思」が認められます。ここで重要なのが、単に保管する意思(善意の占有)ではなく、何らかの形で自己の利益に供そうとする行為があるかどうかです。

利用処分意思は必要か?

問題となるのは、この「不法領得の意思」の中に「利用処分意思」が含まれなければならないかという点です。判例上は、利用処分意思の有無は不法領得の意思の判断要素の一つであるとされていますが、必須構成要件とまではされていません。

たとえば、拾った物を捨ててしまった場合でも、結果的に占有者を排除して自己の意思で処理している点で不法領得の意思が認定される可能性があります。これは「処分意思」があったとみなせるからです。

学説の立場と判例の傾向

通説では、「不法領得の意思」の中に「利用処分意思」が含まれるとしつつも、行為者が物を保持し続ける場合(保管)であっても、状況によってはこの意思が認められるとされています。つまり、行為全体の状況を総合的に判断する必要があります。

判例でも、明確に利用や処分が行われていないケースでも、不返還の意思や長期保管などから不法領得の意思を推認し、有罪認定がされることがあります。これにより、利用処分意思が不可欠とはいえないが、認定の補強要素として重要視されているといえるでしょう。

実例でみる不法領得意思の認定

例えば、電車内で他人の忘れ物を発見し、そのまま持ち帰って自宅に保管していたケースでは、使用していなくても「返す意思がない」点で不法領得の意思が認定されました。

逆に、数時間保管して駅員に届けた場合などでは、短期保管や届け出の意志があったと判断され、不法領得の意思が否定された例もあります。

まとめ:本罪における意思の意味を正しく理解しよう

占有離脱物横領罪における「不法領得の意思」には、「利用処分意思」が含まれるとされますが、それが明確に表現されていなくても、行為全体から推認されることがあります。重要なのは、元の占有者の権利を排除して自己の利益に使用しようとする意思があるかどうかです。

したがって、本罪においては「利用処分意思」を必須とするのではなく、不法領得の意思を中心に状況証拠を総合的に判断するアプローチが、より現実的かつ法的整合性のある解釈といえるでしょう。

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