テレビのニュースなどで逃走車両を警察が追尾している映像を見ると、「なぜもっと積極的に止めに行かないのか?」と感じる方も多いでしょう。特に海外映画やアクションドラマでは、警察が幅寄せして強制的に止めるシーンが印象的に描かれます。しかし、実際の日本の警察の対応はより慎重です。本記事では、その背景にある理由と方針、そして逃走車両への対策について詳しくご紹介します。
逃走車両への過度な強制力行使は事故リスクが高まる
警察が強引に幅寄せをしたり、前方に割り込んで車を止める行為は、追跡されている車両の急な進路変更や速度超過を誘発する可能性があり、市民や第三者を巻き込んだ重大事故につながるリスクが高くなります。
実際にアメリカなどで起こった事例では、警察による追跡が原因で市民が巻き込まれて死亡する事件も発生しており、日本では「公共の安全」を最優先とする判断が重視されています。
ナンバープレートだけではなく、多角的な情報で特定可能
逃走車両が盗難車や偽装ナンバー(通称「テンプラナンバー」)だった場合、ナンバー情報だけでは追跡が難しいのは事実です。しかし現代では、監視カメラ(Nシステム)やドライブレコーダー、目撃情報などを通じて、車両の特徴・走行ルート・搭乗者情報などから後日特定が可能です。
また、追跡中に録画された映像は証拠として利用され、逃走後の検挙につながることも少なくありません。
道路交通法や警察職務執行法の制約
警察官の行動は、警察職務執行法や道路交通法に基づいて行われており、職務を超えた過剰な制止行動は「過剰防衛」として問題になる可能性があります。
たとえば、無理に車を止めた結果、加害者側が怪我を負った場合、「警察による不適切対応」として訴訟になるリスクもあり、法的・行政的責任を慎重に考慮した対応が求められます。
実例:後日逮捕されたケースとその手法
2022年には、埼玉県内でナンバーを外した状態で逃走した車両が、高速道路の防犯カメラと複数の目撃証言、車種と車体のキズの特徴を組み合わせて、2日後にドライバーが逮捕されるという事例がありました。
このように、現場での即時逮捕に頼らずとも、科学的捜査技術や情報連携によって逃走者の身元を特定し、法的責任を問う仕組みが整っています。
そもそも「追跡」が抑止力になることも
警察に追跡されているというプレッシャーは、逃走者にとって大きな精神的負担です。冷静さを失い、自ら停止するか、逃走を断念して立ち去るケースもあります。また、無理に逃走を続けた場合は別の重大な犯罪(危険運転致傷罪など)として重罪化されるため、後の裁判でも不利になります。
まとめ:日本の警察は安全と法的妥当性を重視して追跡対応を判断している
逃走車両への対応について、「なぜもっと強く取り締まらないのか」と感じることもあるかもしれません。しかし、そこには事故を未然に防ぎ、確実に処罰するという合理的で現代的な警察運用が背景にあります。
日本の警察は、即時対応と並行して後日の特定・逮捕にも重点を置いており、安全性・法的正当性・市民への配慮のバランスを保ちながら行動しているのです。