社会福祉法人において、理事の選任は評議員会の議決事項とされており(社会福祉法第45条の6)、選任対象が評議員である場合には利益相反の問題が生じる可能性があります。特に、在任中の評議員が新たに理事に就任するというケースでは、その評議員が選任議案の議決に関与できるのかが重要な論点となります。本記事では、その法的根拠と適切な実務対応について解説します。
理事選任における利益相反とは
理事の選任に関する議案において、評議員が自らを選任する議案に関与する場合、自己の地位や利益に直接的な利害関係が生じることになります。これは「利益相反」に該当し、企業法務の一般原則に照らしても、適正な意思決定の妨げとなるため、当該評議員は議決権を行使すべきではないとされます。
社会福祉法人においても、定款や評議員会運営規程で明確に規定されていない場合であっても、公益性やガバナンスの観点から、利益相反関係にある評議員が議決に参加することは避けるべきです。
適切な対応方法:退席による議決不参加
利益相反関係にある評議員については、当該議案の審議・採決の場面で議場から一時的に退席させる運用が適切です。退席によって議決に関与しなかったことが議事録に明記されることで、手続的な正当性が担保されます。
この運用は、会社法や社団法人の総会等でも広く採用されており、社会福祉法人でも同様の透明性確保手法として推奨されています。
例えば、次のように議事録に記載されることが望ましいです。
議案第〇号「○○○氏の理事選任」について審議を行うにあたり、当該評議員○○○氏は利益相反関係に該当するため、議場から退席し、議決には参加しなかった。
定足数・議決権の取り扱い
当該評議員が退席した場合、その者は議決に加わっていないため、定足数の算定からも除外するのが適切です。つまり、議決に参加している評議員の総数のうち過半数をもって可決する、という形になります。
この対応は、不透明な運営や「利益相反疑念による決議無効」を未然に防ぐリスク管理の観点からも重要です。念のため、評議員会の定款または運営細則にも、利益相反時の議決除外に関する明記を検討するとよいでしょう。
利益相反を避けることが法人の信頼に繋がる
社会福祉法人は公益性を担う組織であり、意思決定の公正性・透明性が何よりも求められます。評議員会での理事選任時における利益相反対策を徹底することは、外部からの信頼を確保し、監査・指導監査対応においても有効な裏付けになります。
万が一にも、利益相反の疑義があった場合に「何も対応しなかった」となることは、法人運営にとって重大なリスクとなり得ます。
まとめ|理事選任時の利益相反には議決除外と議事録明記で対応を
在任中の評議員を理事に選任する際、その評議員は利益相反に該当し、議決権を行使しない対応(退席など)を取ることが適切です。議決の公正性と透明性を担保するためには、議事録への明確な記載と定足数の適切な算定が求められます。
社会福祉法人のガバナンス強化は、日々の意思決定プロセスから始まります。制度に則った判断と丁寧な手続きで、信頼ある法人運営を目指しましょう。