交通事故が発生した際、加害者からよく聞かれる「人をはねたとは思いませんでした」という言い訳。このような発言は、感情的にも法律的にも多くの疑問を呼び起こします。本記事では、このような言い訳がなぜ頻繁に出るのか、法的にどう扱われるのかについて、実例と法律の観点から詳しく解説します。
■なぜ「人とは思わなかった」という言い訳がされるのか?
事故直後の加害者は、動揺やパニックにより正常な判断力を失っていることが多く、意識的であれ無意識的であれ、責任回避の心理が働くとされています。
また、相手の姿が見えなかった、深夜で視認性が悪かった、軽い衝撃だったという理由から、あえて「人ではなかった」と主張することで過失を軽くしようとするケースもあります。
■裁判で「気づかなかった」は通用するのか
刑事裁判においては、「人と認識できたかどうか」ではなく、「注意義務を怠っていなかったか」が重要な判断基準です。つまり、人とは気づかなくても、ブレーキを踏まずそのまま走り去った場合は過失が認定されやすくなります。
特に、ひき逃げ(道路交通法第72条)は「人身事故において救護義務を怠った場合」に適用され、人と気づかなかったという主張だけでは免責されることはほとんどありません。
■実際の判例に見る「気づかなかった」主張の扱い
過去の判例では、「人をはねたことに気づかなかった」と主張した被告が、車両の破損状況や目撃証言などの物的証拠からその主張が退けられ、有罪判決を受けたケースが複数あります。
一方で、本当に気づかなかったことが立証された稀な例では、過失が軽減された判例も存在しますが、それは極めて例外的です。
■人ではなく物に当たったと思った場合でも注意が必要
たとえ相手が自転車や電動キックボードであっても、人が乗っている可能性が高い場所であれば、事故後に必ず停車して確認・通報を行うことが法的にも社会的にも求められます。
その義務を怠れば、「過失運転致死傷罪」「救護義務違反」などの重大な刑罰対象となります。
■加害者心理と被害者感情のギャップ
加害者は「気づかなかった」と言いますが、被害者からすると「なぜ人をはねて気づかないのか?」という感情が強くなり、そこに不信感が生まれます。このような言い訳は、法的な言い逃れとしてよりも、信頼の喪失という社会的リスクが大きいのです。
信頼を回復するには、事故後の誠意ある対応が極めて重要です。
■まとめ:その言い訳、本当に通用する?
・「人とは思わなかった」という言い訳は、加害者心理としてよく見られる
・しかし、裁判ではその主張だけで責任逃れは困難
・事故の程度や状況、証拠によっては重い刑罰が科される可能性も
・事故後はすぐに停車し、救護・通報を行うことが加害者・被害者双方にとって最も重要な行動です
事故を起こさないことが第一ですが、万一のときには正しい行動と誠実な対応が未来を左右します。