自己株式の取得はなぜかつて禁止されていたのか?会社債権者保護の視点から会社法をやさしく解説

会社法を学ぶと必ず出てくるテーマの一つが「自己株式の取得」です。かつては原則として禁止されていたこの制度が、なぜ解禁されたのか。そしてその背景にある「会社債権者保護」とは何を意味するのか。この記事では、初学者でも理解できるよう、具体例とともにわかりやすく解説します。

そもそも会社債権者とは誰のこと?

「会社債権者」とは、会社に対してお金を貸した人や、支払いを受ける立場にある人のことを指します。たとえば、以下のような立場の人が該当します。

  • 銀行(融資を受けた場合)
  • 取引先(商品やサービスを提供して未払いのままの請求書がある場合)
  • 社債保有者(会社が発行した社債の返済を待っている投資家)

つまり、会社が返済・支払い義務を負っている相手全般が「債権者」です。

なぜ自己株式の取得が禁止されていたのか

自己株式の取得とは、会社が自社の発行済み株式を株主から買い取ることを言います。これにお金を使うと、会社の財産が減ります。

ここで問題となるのが、債権者の立場です。たとえば、本来は返済に回されるべき資金が株主への支払いに使われた場合、債権者は取りっぱぐれるおそれがあります。

このため、会社法(旧商法)では長らく自己株式の取得を禁止していました。これは「出資の払い戻し禁止原則」とも呼ばれ、株主が会社から出資を引き上げるような行為を制限することで、会社財産を確保=債権者保護を狙ったルールでした。

引用された教科書の文の意味をかみくだいてみる

教科書の記述「株式会社は、株主が有限責任であり、会社債権者に弁済する引当財産は会社財産に限られる…」を簡単に言うと、次のようになります。

株主は会社が倒産しても“出資した以上の損”はしない(有限責任)ので、債権者が頼れるのは会社の財産だけ。

だからこそ、「その会社財産を減らすような自己株式の取得」は問題視されていたのです。

それでも現在では、一定の要件と手続を満たせば、会社は有償で自己株式を取得することができるようになりました。これが現代会社法の柔軟性です。

会社はなぜ自己株式を取得するのか?実務上の意義

自己株式の取得は、今では以下のような目的で実施されます。

  • 株主還元:利益が出た際に株主へ資本的な利益を提供するため
  • 経営権の安定:敵対的買収の防止のために自社株を買い戻す
  • ストックオプションの付与原資:従業員や役員に報酬として株を渡す

ただし、これらはいずれも会社の財産を減らす行為であるため、債権者保護のための手続(公告・異議申立)が求められることがあります。

債権者保護手続とはどのようなものか?

会社が大きな資本取引(減資・自己株式取得・合併など)を行う際、債権者に「異議を述べる機会」を与えることがあります。これを「債権者保護手続」といいます。

たとえば、公告をしてから一定期間内に債権者が異議を述べなければ、取引が実行されます。これにより、債権者の権利を守りつつ、会社の自由な経済活動も両立させています。

まとめ:自己株式取得と会社債権者保護のバランスを理解しよう

かつては禁止されていた自己株式の取得ですが、現行の会社法では「債権者保護」という視点を確保した上で、柔軟に認められるようになりました。

背景にあるのは、有限責任である株主と、会社財産に頼るしかない債権者の立場のバランスです。この制度設計を理解することで、より深く会社法を学ぶことができます。

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