近年、SNSのダイレクトメッセージ(DM)による誹謗中傷が増加しています。とくに著名人への攻撃的なDMが注目される中、「DMの内容で開示請求はできるのか?」という疑問を持つ方も多いでしょう。今回は法的観点から、名誉毀損や開示請求の可否について詳しく解説します。
ダイレクトメッセージ(DM)は「非公開」=公然性がない
まず前提として、刑法上の名誉毀損罪が成立するには「公然性」が必要です。つまり、不特定多数または多数人が知り得る状況でなければ、名誉毀損罪としては扱われません。
DMは原則1対1の非公開コミュニケーションであるため、一般には公然性が認められず、名誉毀損罪の構成要件を満たさないとされます。ただし、複数人のグループDMや、転送が前提のようなケースでは公然性が問題となる可能性もあります。
プロバイダ責任制限法による開示請求の限界
誹謗中傷などに対して、発信者情報開示請求をする場合、多くは「プロバイダ責任制限法」に基づきます。しかしこの法律の対象は「特定電気通信」とされており、公開型の書き込み(Xの投稿、掲示板、ブログなど)に限定されます。
DMのような非公開のメッセージは同法の適用対象外であるため、通常のルートでは開示請求は通りません。
それでも開示できる可能性はある?他の法的アプローチ
とはいえ、DMが深刻な人格侵害にあたる場合、民事上の不法行為や刑法上の脅迫、強要、侮辱罪などが成立する可能性があります。その場合、刑事告訴または民事訴訟を通じて裁判所に開示命令を求めるルートが残されています。
たとえば以下のようなケースが該当する可能性があります。
- 継続的・執拗なDMで精神的被害を受けた
- 人格を否定する内容を繰り返し送信された
- 脅迫的な文言で安全が脅かされた
こうした場合、弁護士を通じた証拠保全と訴訟提起によって、発信者の特定に至るケースもあります。
実際に開示が認められた判例・事例
近年では、InstagramのDMで悪質な中傷を受けた芸能人が、民事訴訟を通じて開示請求に成功した例も報告されています。こうした事例では、DMであっても侵害の度合いが著しいと評価されれば、開示が認められる余地があることが示されています。
ただし、これはごく限定的なケースであり、開示のハードルは依然として高いのが現実です。
被害を受けた際の対応ステップ
DMで深刻な中傷や脅迫を受けた場合、以下のような対応が推奨されます。
- 証拠をスクリーンショット等で保存
- 弁護士や法テラスに早期相談
- 警察に相談または被害届提出(刑事事件化を目指す)
- SNS運営会社に通報(アカウント停止など)
なお、被害が精神的なものであれば心療内科での診断書も、損害賠償請求の証拠として有効です。
まとめ:DMでも法的保護の可能性はある
DMは原則非公開であるため、名誉毀損罪やプロバイダ責任制限法の適用外とされがちです。しかし、内容や態様によっては、他の法的手段で開示請求や損害賠償請求が認められることもあります。
もしも悪質なDM被害に遭った場合は、一人で抱え込まず、証拠を保存のうえ専門家に相談することが重要です。状況に応じた法的措置によって、加害者の責任追及も可能になります。