契約は双方の意思表示により成立する法的な行為ですが、重要な内容について誤解があった場合、民法第95条に基づき「錯誤による契約の取消」が可能です。しかし、錯誤を主張する側には証明責任が課せられます。この記事では、錯誤の成立要件と証明方法について具体的に解説します。
錯誤とは何か?民法上の位置づけ
錯誤とは、契約の重要な要素について誤った認識をもとに意思表示をした状態をいいます。たとえば、土地の面積を100㎡と思って契約したが、実際は50㎡だったようなケースが該当します。
このような錯誤が「要素の錯誤」であり、「取引上重要な部分」にかかわるものであることが契約の取消しの前提になります。
錯誤による取消しが認められる条件
- 錯誤が「取引の重要な要素」に関するものである
- その錯誤が「表示上明らか」である、または相手方にとって「知り得た」錯誤である
- 重大な過失がない(ただし例外あり)
たとえば商品説明書が不十分であった場合や、売主が誤認を訂正しなかった場合は、取消が認められる可能性が高まります。
錯誤をどうやって証明するのか?実務の視点から
錯誤があったことを立証するには、主に以下のような証拠が必要になります。
- 契約交渉のメールやLINEの履歴:誤認した内容がやりとりに残っている場合
- 契約書や説明資料:誤認を誘発する不十分な情報の提示があったか
- 証人の証言:当事者以外の第三者が錯誤の内容を知っていたかどうか
- 録音や録画:当事者の認識や確認過程の記録
特に重要なのが、錯誤が「一方的な思い込み」ではなく、交渉過程から発生していたと示せる資料です。
錯誤の主張が通らない典型例と注意点
以下のような場合は、錯誤の主張が退けられる可能性が高くなります。
- 契約前に説明を受けていたにもかかわらず内容を確認しなかった
- 錯誤の内容が契約の中心的でない部分(例えば細かな備品の仕様など)
- 契約書に「内容を確認済み」と明記されている
このような場合、裁判所は「重大な過失があった」と判断し、取消を認めないことがあります。
錯誤を避けるために事前にできること
錯誤によるトラブルを防止するために、契約当事者として次の点を確認しましょう。
- 契約書の全体を読み、疑問点は明確にしておく
- 交渉や説明の過程をできる限り文書化して残す
- 重要な要素(価格、物件の状態など)については再確認し記録を取る
特に初めて契約を結ぶ相手の場合は、契約書のチェックと交渉過程の保存が大切です。
まとめ:錯誤を証明するには「準備」と「記録」が鍵
錯誤による契約取消しを主張するには、契約の重大な要素に誤解があったこと、そしてその誤解が合理的であったことを証明する必要があります。口頭のやり取りだけでなく、文書や履歴など第三者が見て納得できる資料を用意することがポイントです。
取消しを検討する際は、弁護士などの専門家と連携し、証明可能性を早い段階で確認することをおすすめします。