近年、訪日外国人旅行客に適用されている免税制度を廃止するべきという議論が活発化しています。財務省の試算によれば、制度を廃止することで年間約2,000億円の税収確保が可能になるとされ、財政再建の一手として注目を集めています。本記事では、法律・経済・観光政策の観点から免税制度廃止論のメリット・デメリットを多角的に分析します。
■訪日外国人向け免税制度の仕組みと背景
免税制度とは、外国人旅行者が一定額以上の商品を購入した場合、消費税を免除する仕組みです。日本では消費税法第8条・第66条の特例として導入され、観光立国政策の一環として訪日客の購買促進を目的としています。
免税対象となるのは「非居住者(短期滞在)」であり、滞在中に使用しないことが条件で、基本的に空港などでの出国時に確認されます。
■廃止論の背景と財政的インパクト
財務省や一部政治家の間では、「インバウンド需要が回復する中で免税を継続する必要はない」「不正利用も多く、制度の維持コストがかさむ」といった理由から、制度廃止により消費税収を拡大すべきとの声が高まっています。
財政制度等審議会の資料によれば、免税による減収は2023年度で推定約2,000億円規模。これは中堅都市の年間予算に匹敵する額であり、社会保障財源などに回す余地があると指摘されています。
■制度廃止に対する法律実務家の見解
多くの法律専門家や税理士は、「租税法律主義」の原則から、制度の透明性・公平性を重視すべきと指摘しています。
中には「免税制度は一部の事業者や旅行代理店に優遇的に働いており、制度的歪みがある」という意見もあり、制度見直しは妥当という声もあります。ただし廃止する場合は、急激な変更による観光・流通業界への影響を最小限に抑える法的調整が必要だとされています。
■観光産業への影響と経済界の反応
日本百貨店協会や地方商工会議所は、「免税制度はインバウンド需要を支える柱」であり、廃止すれば外国人観光客の購買意欲が冷え込むと強く反対しています。
例えば、大阪のある百貨店では、訪日外国人の売上のうち6割以上が免税対応商品によるものであり、廃止によって売上減少が避けられないと懸念されています。
■不正利用と制度の見直し案
一方で、訪日外国人による転売目的の「爆買い」や偽装購入などが一部で問題化しており、制度運用の厳格化を求める声もあります。
現行制度の運用改善案としては、
- 出国時の免税確認強化
- 免税上限額の引き下げ
- 電子手続きの導入による不正防止
などが挙げられており、「全面廃止より段階的改革を」とする中間案も検討されています。
■まとめ:免税制度廃止は是か非か?
- 制度廃止による財源確保(約2,000億円)は魅力的だが、観光産業への悪影響は避けられない
- 法律家の多くは、制度の透明性と公平性の観点から「改革は必要」との立場
- 観光業界は強く反対し、段階的な見直しを求める声が多数
- 最適解は「不正対策+部分的な制限」といった制度再設計の可能性
免税制度は、単なる税制措置ではなく、日本の観光政策・経済活動の中核にもかかわる問題です。短期的な財源確保か、長期的な国際競争力か――そのバランスをどう取るかが問われています。