弁護士が凶悪事件の弁護を引き受ける理由とは?正義と倫理の間にある職務の本質を解説

凶悪な犯罪事件で加害者の弁護を務める弁護士の存在に、疑問や怒りを感じる人は少なくありません。「自分の子が被害者だったら同じことが言えるのか?」という意見も多く、特に重大事件では感情的な反発が強くなる傾向があります。しかし、刑事弁護人の役割には、法律の根幹に関わる重要な意義があります。

刑事弁護の役割とは?正義を守るための制度

日本の刑事裁判は「無罪推定の原則」に基づいています。つまり、裁判で有罪が確定するまでは被告人は無罪とされるべきであり、弁護士はその前提に基づき適正な審理が行われるよう働きます。

弁護士の役目は「犯人を守ること」ではなく、「被告人の法的権利を守ること」です。感情ではなく法的根拠に基づいて、刑罰の妥当性や裁判の公正性を担保する役割があります。

凶悪事件でも弁護される理由

たとえ重大犯罪であっても、被告人には憲法上の権利があります。弁護人がつかない裁判では、冤罪や過剰な処罰のリスクが高まり、社会全体の司法制度への信頼が損なわれかねません。

たとえば、浜松で発生した高校生被害の事件において、弁護団が「自発的犯行ではない」と主張して刑期の軽減を求めたのは、被告人の責任の程度を客観的に整理し、刑法の枠組みの中で妥当な判断を裁判所に促すためです。

弁護士の内心と倫理観:全ての弁護が「納得」ではない

多くの弁護士が、「もし自分が遺族だったら同じようにできるか」と自問自答しながら職務に向き合っています。実際に、複数の弁護士が「この事件だけは精神的に厳しかった」と語る例もあります。

それでも職務を引き受けるのは、「どんな事件であっても適正な手続きが必要だ」という強い信念があるからです。弁護士が弁護を放棄すれば、制度のバランスが崩れ、将来的に誰も公正な裁判を受けられなくなる可能性があります。

社会的には「軽すぎる」と感じる量刑でも、法的には意味がある

刑罰は「感情」ではなく「法律」と「事実認定」に基づいて決まります。検察の求刑も裁判所の判断も、量刑相場・加重減軽要素・量刑事情など複数の要素を踏まえた上で決定されます。

例えば、「共犯で主導していない」「未成年」「反省している」「自白している」などが認められると、判決は軽くなる傾向があります。このことは感情的には納得できなくても、制度としての整合性を保つために存在しています。

まとめ:弁護士は「犯罪を擁護する存在」ではない

弁護士は被告人の肩を持っているのではなく、法的正義の担い手として「適正な裁判」を支えているのです。刑事弁護の本質は、加害者の味方ではなく、社会全体の法秩序の守り手ということを理解することが、感情と制度のバランスを考える第一歩となるでしょう。

理不尽な事件に対する怒りは当然ですが、その怒りを正しく処理するためにも、司法制度とその支え手である弁護士の存在意義を知っておくことが大切です。

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