交通事故という大きな出来事を経験したあと、多くの人は「もう車は運転したくない」「怖くてハンドルを握れない」と感じます。しかし中には、驚くほどスムーズに運転を再開できる人もいます。それは一見、感情が麻痺しているようにも思えるかもしれませんが、実際は人間の心の多様性や回復力の一面です。本記事では、事故後に運転への恐怖が出なかった理由や心理的背景について掘り下げていきます。
トラウマ反応は「ある」「ない」で正解が分かれるものではない
交通事故のような外傷体験に対して、人の心は様々な形で反応します。いわゆる「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」のような症状が出る人もいれば、まったく何も感じない人もいます。
重要なのは、恐怖や不安がないからといって異常ではないということ。実際、全員がトラウマを抱えるわけではありません。これは個人の性格、環境、過去の経験、そして事故直後のサポート体制などによって大きく異なります。
なぜ恐怖心が湧かなかったのか?考えられる心理的背景
事故後にすぐ車を買い、再び運転できたことは以下のような背景が関係している可能性があります。
- 心の防衛反応(認知的抑制):脳が強い恐怖記憶を無意識に抑えている
- ポジティブな意味づけ:「事故は起きたけど自分はもう大丈夫」と捉えている
- 回復への意志:運転できる=日常を取り戻す象徴と感じていた
中には「車に乗らないと自分を失ったように感じる」といった意識を持つ人もいて、それが結果として恐怖心よりも回復への行動につながることもあります。
「普通なら怖がるはず」?それは幻想かもしれない
「事故にあったのに怖くない自分は心が死んでる?」と感じてしまうのは、自己評価が厳しすぎる可能性もあります。社会には「こう感じるべき」「こうあるべき」という“正解像”がありますが、人の心には正解も平均も存在しません。
たとえば、戦争経験者でもフラッシュバックに悩まされる人と、ケロッとして暮らしている人がいます。同じように、事故後に「動悸や過呼吸が出る人」と「むしろ平然と車に乗れる人」がいても不思議ではないのです。
心が「死んでいる」どころか、生きて適応している証拠
「感情が動かない=心が壊れている」と思いがちですが、それは必ずしも事実ではありません。むしろ、それは心が環境に順応し、冷静に現実を受け入れているサインかもしれません。
臨床心理学では、こうした状態を「レジリエンス(心の回復力)」と呼びます。苦しい体験を経てもなお、前を向き、普通の生活に戻ろうとする力が働いているのです。
まとめ:恐怖がないあなたは異常ではない
大事故を経験したにもかかわらず、新たな車を購入し、運転も再開できたあなたは、むしろ強い回復力と順応力を持っていると言えます。恐怖がない=異常、ではなく、「怖いと思わない自分も、ひとつの正常な反応」です。
人の心は一律ではなく、反応にも幅があります。大切なのは、自分の心の声に正直になりながら、今後も安全運転を心がけること。それだけで充分、あなたの心は「生きている」と言えるのです。