遺産相続において「すべての財産を配偶者に」という内容の遺言書がある場合でも、子どもたちの戸籍謄本や印鑑証明書が求められることがあります。これは一見不思議に思えるかもしれませんが、相続登記や預貯金の解約手続きなどでその正当性を証明する必要があるためです。
なぜ戸籍や印鑑証明が必要になるのか
遺言書があっても、法的に有効な自筆証書遺言であることを証明するため、被相続人の出生から死亡までの戸籍が必要です。また、受遺者以外の法定相続人の存在を確認するために、相続人全員の戸籍謄本が必要になります。
また、金融機関や登記所によっては、他の相続人が遺言書の内容に異議を唱えていないことを示す目的で印鑑証明を求める場合もあります。たとえ遺言執行者が指定されていても、トラブル防止の観点から補足書類が必要になることもあります。
行方不明の相続人がいる場合の対応
法定相続人の一人が行方不明で連絡が取れない場合、「失踪宣告」や「不在者財産管理人選任」などの手続きが必要になる可能性があります。
たとえば、不在者財産管理人を家庭裁判所に申し立てることで、その代理人が手続きを進めることができます。これにより、相続登記や遺産分割協議などが可能になります。
遺産分割協議書は必要か?
遺言書がある場合、原則として遺産分割協議書は不要です。ただし、不動産の登記や預金の払い戻しの場面で、他の相続人が遺言に異議を唱えないという確認を取るために、協議書または同意書を作成することが現実的には求められるケースがあります。
特に「全てを配偶者に」と明記された内容でも、形式や記載方法が不完全だと、他の相続人の関与が必要になる可能性があるため注意が必要です。
名義変更しないとどうなる?義務化された相続登記
2024年4月から、相続登記が義務化され、被相続人の死亡を知ってから3年以内に登記申請しないと過料(罰金)が科される可能性があります。
したがって、費用や手間がかかっても、正規の手続きを行わずに放置すると法的リスクが高くなる点を理解しておきましょう。
名義変更の費用とその意義
相続登記には登録免許税(固定資産評価額の0.4%)や司法書士への報酬などがかかり、十数万円以上になるケースもあります。しかし、不動産の名義が故人のままだと売却も担保設定もできませんし、後の代で手続きがさらに煩雑になるため、早期の対応が推奨されます。
将来的なトラブル回避や資産の明確化のためにも、多少の費用をかけてでも登記は完了させておくのが賢明です。
まとめ:遺言があっても慎重な手続きが必要
「すべて母親に相続」と書かれた遺言書があっても、戸籍・印鑑証明の提出が必要になるケースは珍しくありません。また、相続人の一人が行方不明の場合でも家庭裁判所の手続きを活用すれば解決の糸口は見つかります。
登記義務化に対応するためにも、放置せず、司法書士などの専門家と連携して早期に手続きを進めることをおすすめします。