交通事故に遭った際、損害補償は主に相手方の任意保険と、自賠責保険(強制保険)から支払われることになります。被害者がこれらをそれぞれ請求することで、二重取りになるのでは?と不安に思う方も多いのではないでしょうか。本記事では、自賠責保険と任意保険の支払い関係、直接請求した場合のリスクや返金義務の有無など、実務的な観点から解説します。
交通事故の補償構造:任意保険と自賠責保険の関係
交通事故の損害賠償は、まず自賠責保険が優先的に使われ、補償しきれない部分を任意保険が上乗せ補償する形になっています。
つまり、自賠責保険は被害者救済の“最低限”の補償制度であり、120万円までの傷害、3,000万円の後遺障害補償などが対象です。一方で、任意保険(対人・人身傷害など)はその上限を超える部分をカバーします。
被害者請求と一括対応:2つの請求方法の違い
自賠責保険への請求方法には2通りあります。
- 一括対応方式: 相手方の任意保険会社が自賠責分も立替え、後日自賠責に請求
- 被害者請求方式: 被害者自身が自賠責保険会社に直接請求する方法
通常は一括対応が一般的ですが、相手の任意保険会社の対応が遅い、交渉が進まないといった場合、被害者自身が自賠責に請求することが可能です。
二重取りになるのか?保険金請求における重複の扱い
自賠責保険金を被害者自身が先に受け取っていた場合、その情報は任意保険会社や損害保険料率算出機構を通じて後日判明します。任意保険会社が一括対応をしようとした際、「既に自賠責で支払済み」と分かれば、その分を除いて上乗せ部分のみを支払うことになります。
つまり、自賠責と任意保険の両方から“同じ損害に対して”二重で受け取ることはできません。金額が重複していると、任意保険会社または自賠責側がその分の返還を求める可能性があります。
実際に返金請求される可能性と対応方法
被害者が自賠責保険金を受け取った後、さらに同内容で任意保険から支払いを受けた場合、重複分が「過払い」として扱われ、任意保険会社から返還請求されることがあります。
この場合、相手方保険会社は自賠責の支払状況を確認したうえで、すでに本人が直接受け取っていたことを把握し、任意保険から支払済額を調整します。それでも超過分が発生していれば、書面で返金請求がなされるのが通例です。
ただし、支払日や請求根拠などに誤解があることもあるため、保険会社からの連絡があれば必ず明細を確認し、不明な点は相談・交渉するようにしましょう。
自賠責保険の直接請求は違法ではないが注意が必要
被害者が自賠責に直接請求すること自体は合法かつ制度上認められている行為です。むしろ一部のケースでは、加害者側の保険会社に頼らず早期に補償を得るために有効な手段でもあります。
しかし、重複請求による返金義務や、賠償交渉が煩雑になるリスクがあるため、事前に任意保険会社に「自賠責へ直接請求する意向がある」旨を伝えることが望ましい対応です。
まとめ
交通事故で被害者が自賠責保険へ直接請求し、その後任意保険会社からも保険金を受け取った場合、重複分があれば二重取りとなり、返金義務が生じる可能性があります。
しかし制度上は、被害者請求は認められており、注意点さえ理解しておけば活用できる手段です。保険会社との連携を図りつつ、書類や支払内容の明細を常に保管・確認し、必要に応じて専門家に相談することで、適正かつ円滑な補償を受けられるようにしましょう。