日本の会社法において、取締役会の運営のために認められている「特別取締役」の制度は、一定の条件下で取締役会の決議を可能とする柔軟な仕組みです。しかし、指名委員会等設置会社ではこの制度が適用されません。この記事では、その理由や背景を制度設計の観点からわかりやすく解説します。
特別取締役制度の概要と目的
特別取締役制度とは、会社法第373条に規定される制度で、常勤取締役の中から選任された取締役を中心に構成することで、取締役会の開催が困難な場合でも、必要な議決を迅速に行うことを目的としています。
たとえば、地理的に離れた場所にいる社外取締役が多く、通常の取締役会開催が困難なケースにおいて、迅速な意思決定を補完する制度です。
指名委員会等設置会社の特徴
指名委員会等設置会社は、社外取締役を多数含む3つの委員会(指名・報酬・監査)を設け、経営の透明性や監督機能を強化した企業統治の形態です。
執行役制度を導入し、取締役会が基本方針の決定や監督に専念し、業務執行は執行役に任せるという、明確な機能分化がなされています。
なぜ特別取締役制度が適用されないのか
指名委員会等設置会社では、社外取締役が過半数を占める取締役会の構成が求められます。特別取締役制度は「常勤取締役」による柔軟な意思決定を前提としていますが、指名委員会等設置会社ではこの前提が根本的に合致しません。
特に、重要な意思決定において、社外取締役による監督の機能を形式的・実質的に担保することが求められており、少人数の常勤取締役に決議を委ねる特別取締役制度はその統治構造と相容れないのです。
制度的な矛盾を避けるための立法趣旨
指名委員会等設置会社では、取締役会がより監督機能に特化しているため、迅速な業務執行は執行役に委任されています。したがって、そもそも業務執行に関する迅速な決定を「取締役会で完結させる必要がない」設計となっています。
結果として、取締役会での決議に柔軟性を持たせる特別取締役制度の導入意義が乏しく、導入することで統治機能が逆に形骸化するリスクすらあるという考え方が採られています。
他の設置会社との違いを比較する
会社形態 | 特別取締役制度の可否 | 主な理由 |
---|---|---|
監査役会設置会社 | 可 | 業務執行と監督が一体的 |
監査等委員会設置会社 | 可 | 取締役会が業務執行に深く関与 |
指名委員会等設置会社 | 不可 | 取締役会は監督特化、業務執行は執行役 |
まとめ
指名委員会等設置会社では、特別取締役制度が導入されていないのは、制度の目的や役割が企業統治の構造と整合しないためです。監督と執行を明確に分離するという制度設計の理念を維持するためには、柔軟な決議制度よりも、社外取締役を含む構成員全体での合議を重視する必要があります。
制度ごとの役割と構造の違いを正確に理解することが、会社法の深い理解につながります。