刑事事件において「実際に人を殺そうとした者」と「そうするよう仕向けた者(扇動・指示した者)」がいた場合、両者の罪の種類は同じとは限りません。この記事では、刑法に基づき、それぞれの行為に該当する罪とその法的な違いについて、わかりやすく解説します。
直接手を出した人の罪:殺人未遂罪
まず、人を殺そうとして実際に行動を起こしたが結果的に死に至らなかった場合、刑法第203条の殺人未遂罪が適用されます。
殺人未遂罪とは、「人を殺そうとしたが、未遂に終わった」場合に問われるもので、未遂であっても重い罪とされ、無期懲役または5年以上の有期懲役が科される可能性があります。
仕向けた人の罪:教唆犯または共同正犯
一方で、殺人をそそのかしたり、計画を立てて他人に実行を促した者については、刑法第61条の「教唆犯(きょうさはん)」が成立します。
教唆犯とは、「人を唆して犯罪を実行させた者」に適用されるもので、その罪の重さは基本的に正犯と同様です(つまり殺人未遂罪が適用された場合、教唆犯にも同じ刑罰が科されます)。
教唆犯と共同正犯の違い
もし「仕向けた人」が単に言葉で指示しただけでなく、計画立案・武器の準備・実行の監視など、実行行為に深く関わっていた場合には、刑法第60条の「共同正犯」に問われる可能性もあります。
共同正犯は「二人以上が共同して犯罪を実行した場合」に適用され、実際に手を下さなくても、犯罪の意思と共同行為があれば正犯と同等に扱われます。
未遂の場合でも教唆は成立するのか
結論から言えば、未遂でも教唆犯は成立します。つまり、殺人未遂に終わったとしても、それを仕向けた者は「殺人未遂教唆罪」となります。
なお、教唆された者が途中で実行をやめた場合でも、教唆者が罪に問われるケースがあります(未遂教唆、あるいは準備罪などとして)。
具体例で理解する
例1)AがBに「Cを殺してほしい」と頼み、BがCをナイフで刺したが、Cは命を取り留めた場合:
B=殺人未遂罪、A=殺人未遂教唆罪
例2)AとBが一緒にCの殺害を計画し、Bが実行、Aは車で待機して逃走を手助け:
両者とも殺人未遂の共同正犯に問われる可能性が高いです。
まとめ
殺人未遂を実行した人物は殺人未遂罪に、背後で実行を仕向けた人物は殺人未遂教唆罪あるいは場合によっては共同正犯として処罰されます。
刑法上、教唆や共謀も実行と同様に重く扱われることがあり、「自分は手を下していない」では免責されない点に注意が必要です。