法学部の試験では、出題範囲に応じた条文を根拠に論述することが求められます。特に民法の「債権総論」に該当する問題であれば、民法第399条から520条の範囲での規定を使って論理構成を行う必要があります。本記事では、旅行会社が外注した業務で生じた事故に関して、元請け会社に損害賠償請求できるかを債権総論の観点から整理します。
債務不履行と債権総論の基本的な適用範囲
債権総論では、民法第415条「債務不履行による損害賠償」が中心的な論点となります。この条文は、債務者が契約上の義務を履行しなかったことにより損害が発生した場合、損害賠償が請求できる旨を規定しています。
今回のケースでは、AがB社とツアー契約を締結したにも関わらず、その履行過程で事故が起きた点が問題となります。C社はB社の下請けであるため、直接的な契約関係はAとC社の間に存在しません。
履行補助者と使用者責任の違いに注意
ここで重要なのは、「履行補助者」(民法第399条の2に基づく)としての位置づけです。C社がB社の業務を補助する形で動いていた場合、B社はC社の不法行為に基づく過失にも一定の責任を負うとされます。
この論点は、使用者責任(民法第715条)と混同されがちですが、債権総論の試験問題であれば、使用者責任条文は適用外となるため、履行補助者の範疇で構成を行うべきです。
履行補助者の違法行為がもたらす債務不履行責任
C社が事故を起こしたことでAが損害を受けた場合、それがB社の債務履行過程で起きたと評価されるならば、民法第415条によりB社は損害賠償責任を負います。
たとえば、C社の安全管理が不十分で事故を招いた場合、それがB社の契約上の旅行実施義務に照らして不適切であれば、B社の債務不履行が認められます。したがって、C社の行為が履行補助者の行為とみなされれば、B社の責任を問う余地があります。
契約の内容と債務の特定がカギ
このような問題で合否を分けるポイントは、契約の内容が何であったか、そして債務の内容が何であったかを適切に特定できるかにあります。たとえば、契約が単なる手配型旅行であったか、募集型旅行であったかによってB社の責任の範囲も変わってきます。
また、履行補助者の行為が契約上の義務の履行と密接な関係があるか否かも、論証のうえで明示しておく必要があります。
瑕疵担保責任や契約不適合責任は出題対象外?
ご指摘の通り、契約不適合責任(第562条以降)や瑕疵担保責任といった規定は債権総論の範囲外であるため、法的根拠として用いるのは不適切とされます。試験では、出題範囲に厳密に従った条文選択が重要です。
そのため、履行補助者論・債務不履行責任・信義則(民法第1条第2項)など、債権総論の範囲で構成を完結させることが求められます。
まとめ:出題範囲内の条文で論理的に構成する重要性
今回のような法学部の試験問題では、出題範囲に対応する条文の正確な適用が評価対象となります。契約不適合責任や使用者責任に踏み込むのではなく、履行補助者の理論と債務不履行の構成で対応するのが正攻法です。
法的構成力と条文の使い分けが求められるこの種の問題こそ、債権法の理解度を試す好例と言えるでしょう。