近年、YouTubeなどで人気を集めている「切り抜き動画」ですが、その影響力の大きさから、配信者本人だけでなく切り抜き投稿者にも法的責任が問われるケースが増えています。今回は、他者を誹謗中傷する発言を含む場面を切り抜いた場合、法的にどのようなリスクがあるのかを解説します。
切り抜き動画投稿者が問われる法的責任とは
動画を切り抜いて投稿する行為は、配信者本人の発言を編集し拡散することになります。このとき誹謗中傷の文言が含まれている場面を意図的に抜粋し、タイトルやサムネイルで煽るような内容にした場合、拡散行為の主体とみなされ、以下のような法的責任を問われる可能性があります。
- 名誉毀損(民事・刑事)
- プライバシー侵害
- 侮辱罪
- 不法行為に基づく損害賠償請求
切り抜いた本人が誹謗発言をしていなくても、「積極的に広めた」と見なされれば責任を免れることはできません。
「再生数が多い」「収益化している」場合の影響
再生数が1万〜3万程度でも、特定の界隈で広く拡散され、対象者に精神的・社会的損害を与えた場合は、損害賠償の根拠になります。さらに、動画で収益を得ている場合「営利目的の拡散」と評価され、悪質性が高まると判断されることもあり、請求額も高額になる可能性があります。
収益の有無にかかわらず、切り抜きによって「名誉を棄損された」とされると、対象者または所属団体から開示請求や損害賠償を受けるケースがあります。
開示請求と損害賠償請求の流れ
誹謗中傷の拡散に対する訴訟リスクとしては、まず被害者側が「発信者情報開示請求」を行い、プロバイダ等を通じて投稿者の情報を特定します。その後、以下の対応がなされることがあります。
- 示談交渉による和解金の請求
- 正式な民事訴訟による損害賠償請求
- 刑事告訴(名誉毀損罪・侮辱罪など)
一度投稿した内容は記録に残り、削除しても免責とはなりません。速やかな対応が重要です。
「切り抜き」とはいえ投稿者の責任は問われる
誹謗中傷発言そのものは配信者の責任であるように思えますが、それを選んで切り出し、拡散可能な形で再構成して投稿した切り抜き投稿者にも、「共同不法行為」や「名誉毀損の加担者」としての責任が生じる可能性があります。
特に「○○は弱い」など断定的な表現をサムネイルに使うと、それ自体が評価的表現や名誉毀損の根拠とされやすく、リスクはより高くなります。
トラブルを避けるために意識すべきこと
切り抜き投稿でのトラブルを回避するためには、次のようなポイントに注意しましょう。
- 誹謗中傷的な場面の切り抜きは避ける
- 過激なタイトル・サムネイルを付けない
- 本人や事務所のガイドラインを必ず確認する
- 該当動画が問題になった場合は速やかに非公開・削除する
また、弁護士への相談を通じて対応方針を検討することも重要です。
まとめ:切り抜き動画の投稿者にも責任が及ぶ可能性は高い
切り抜き動画は、配信者の魅力を広める反面、誤解や誹謗中傷を助長するリスクも伴います。特に、他者を攻撃する場面の切り抜きや、煽り気味のタイトル・サムネイルの使用は、法的リスクを著しく高める行為です。
「切り抜いただけ」と考えるのではなく、投稿者自身も情報発信の主体であるという意識を持ち、慎重な運用を心がけましょう。