相続手続きにおいて、親族間の関係性や遺留分請求の交渉がこじれることは珍しくありません。特に遺言書が存在する場合や、主導権を持つ親族が他者である場合は慎重な対応が求められます。この記事では、遺産分割における誓約書の扱いや、遺留分請求に対する正当な対処法を解説します。
誓約書への署名義務はあるのか?
まず重要なのは、法的に誓約書への署名義務は一切存在しないという点です。たとえ相続人からの提案であっても、その内容が著しく不利で一方的な場合、署名を強制することはできません。署名によって新たな法的義務を背負う可能性もあるため、慎重に検討すべきです。
実際に裁判所でも、脅迫的あるいは不合理な誓約内容は無効とされるケースが少なくありません。
署名を拒否することで発生する不利益は?
誓約書への署名を拒否しても、それ自体で法的な不利益は原則として発生しません。ただし、相手方が任意の話し合いを打ち切り、遺留分侵害額請求訴訟へと移行する可能性があります。
しかし、これはむしろ望ましいケースとも言えます。なぜなら、訴訟に持ち込まれることで、相手の無理な要求が排除され、現金による合理的な支払いで解決が図れるからです。
義兄が代理・主導することの法的問題点
たとえ義兄であっても、法的に姉の代理人となるには「法定代理権」や「任意代理権」の存在が必要です。現状、認知症の疑いがある以上、成年後見制度を通じた後見人の選定が求められます。
義兄が後見人等の正式な手続きを経ずに意思決定を主導している場合は、法的代理人としての資格を持たない可能性が高く、その言動には慎重な対応が必要です。
相手の要求が理不尽な場合の対応策
もし相手の誓約書が一方的かつ違約金を含む内容である場合、家庭裁判所による調停・審判や地方裁判所への民事訴訟を通じた法的手続きに切り替えるのが得策です。
この際、相手が訴訟や後見人選任に踏み切れば、費用・手間・時間の負担は彼らの側に生じます。結果的に、それを回避してより現実的な解決策に落ち着く可能性も高まります。
相続人側がとるべき実務的なステップ
- 弁護士に相談し、文書内容のリーガルチェックを受ける
- 姉の認知能力について専門医による診断を促す
- 成年後見制度の申立てを検討する
- 調停や審判を視野に入れた戦略的準備をする
遺言書がある場合は、その内容を尊重しつつ法的根拠のある遺留分請求のみを受け入れるという姿勢を明確に示すことが大切です。
まとめ:冷静な対応と法的手続きの活用を
感情的なやり取りや一方的な誓約書に振り回される必要はありません。遺留分請求は「現金請求」が原則であり、誓約書による条件追加は本来の法的趣旨から逸脱しています。
不当な要求には毅然とした対応を取り、必要に応じて調停や訴訟へ進む判断も視野に入れるべきです。法的な正当性を持って解決を目指すことが、長期的に見て最善の選択となるでしょう。