交通事故が発生した際、運転者にはただちに負傷者を救護するという重要な義務があります。この義務を怠った場合、法的責任を問われる可能性がある「救護義務違反」に該当します。本記事では、救護義務違反の定義や適用範囲、実際の事故現場での振る舞いが法的にどう判断されるかを解説します。
救護義務とは何か?道路交通法で定められた責務
日本の道路交通法第72条には、交通事故の加害者に対し「負傷者を救護し、かつ、直ちに警察官に報告すること」が義務付けられています。この条文に基づく行動が不十分であった場合、救護義務違反に問われ、最大で10年以下の懲役または100万円以下の罰金という重い刑罰が科される可能性があります。
単に逃げなければいいというものではなく、被害者の安否確認や応急措置を怠っただけでも違反となり得ます。
「現場にとどまったが何もしなかった」は違反に該当する?
救護義務違反は「現場から逃走したかどうか」だけでなく、「適切な救助行為を行ったかどうか」が問われます。被害者の様子を見に行かず、声もかけず、他者に救助を任せたまま放置する行為も、法的には救護義務違反とみなされる可能性があります。
実際の判例でも、「救急車を呼んだが負傷者に声をかけなかった」「負傷者を助ける意思を見せなかった」などの行動が問題視されたケースが報告されています。
加害者がすべきだった対応と正しい手順
事故後、加害者が取るべき行動は以下の通りです。
- 事故車両を安全な場所へ移動させる(可能であれば)
- 負傷者に声をかけ、状態を確認する
- 救急車・警察へ通報する
- その場を離れず、救助活動に協力する
これらの基本的行動を取らなかった場合、「たまたま居合わせただけではない加害者」という立場において、責任放棄とみなされるリスクが非常に高くなります。
目撃者の証言と客観的証拠がカギになる
救護義務違反の成否は、現場の状況・当事者の行動・周囲の証言・ドライブレコーダーなどの証拠によって判断されます。今回のように「通行人が救助し、加害者は何もしていなかった」という情報が複数の証言で一致すれば、刑事責任が問われる可能性もあります。
被害者側としては、救助してくれた人の連絡先や目撃者の証言を確保しておくことが重要です。
刑事責任とは別に民事・行政上の責任も
救護義務違反が成立すれば、刑事処分に加えて免許停止・取消といった行政処分や、被害者への損害賠償責任も問われます。損害賠償では、救護を怠った非人道的対応が慰謝料の増額要因になることもあります。
また、保険会社とのやりとりにおいても、加害者の不誠実な対応は印象を悪くし、交渉に不利に働く可能性があります。
まとめ:救護義務違反は「逃げない」だけでは済まない
交通事故における救護義務とは、単に現場にとどまるだけではなく、「被害者を助けようとする意思と行動」が伴って初めて果たされたと見なされます。今回のように、加害者が現場にいながら声もかけず、救助行動をとらなかった場合は、救護義務違反に問われる可能性が十分あります。
被害者やご家族が法的措置を検討する際には、弁護士や警察への相談、証拠の確保を早期に行うことが重要です。