ニュースや事件報道でたびたび耳にする「威力業務妨害」と「公務執行妨害」。どちらも“妨害”という言葉が共通していますが、実は適用される場面や対象が大きく異なります。本記事ではそれぞれの定義と違い、具体例を交えて法律の視点から丁寧に解説していきます。
威力業務妨害とは何か
威力業務妨害罪は刑法第234条に定められた犯罪で、「威力を用いて他人の業務を妨害する行為」が対象です。ここでいう“業務”には、企業活動や商売、学校運営など広範な民間・法人活動が含まれます。
たとえば、企業に対して爆破予告をしたり、店舗に押しかけて営業を妨げるような行為が該当します。威力とは物理的な暴力に限らず、精神的威圧や虚偽通報なども含まれるのが特徴です。
公務執行妨害とは何か
一方、公務執行妨害罪は刑法第95条に基づき、「公務員が職務を執行する際に、暴行または脅迫を用いて妨害する行為」を処罰します。主に警察官・消防士・税務職員などが該当します。
具体的には、職務質問中の警察官に暴行を加えたり、逮捕を免れようと警察官に暴力を振るったケースなどが典型例です。
2つの罪の主な違い
比較項目 | 威力業務妨害 | 公務執行妨害 |
---|---|---|
対象 | 民間・法人の業務 | 公務員の職務 |
手段 | 威力(暴力・脅迫・虚偽等) | 暴行または脅迫 |
法的根拠 | 刑法第234条 | 刑法第95条 |
表からも分かるように、妨害の対象と使用される手段が大きく異なります。威力業務妨害では、対象が民間であること、また“威力”という広範な手段が認められるのが特徴です。
実際の判例と事例
【威力業務妨害の例】
2021年、ある飲食チェーンに対し「毒を入れた」と虚偽の通報をした男性が逮捕されました。店舗は一時営業停止となり、被害額も数百万円に。これは典型的な威力業務妨害です。
【公務執行妨害の例】
2022年、警察官の職務質問中に、逃走を図り警察官に体当たりした男性が公務執行妨害罪で現行犯逮捕されました。
どちらが重い罪?量刑の違い
威力業務妨害の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」ですが、公務執行妨害は「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」とされています。量刑自体に大差はないように見えますが、公務執行妨害は国家への反抗とみなされ、刑の執行が厳格になる傾向があります。
また、公務執行妨害は現行犯逮捕されやすく、執行猶予が付かない判決になることも多いため注意が必要です。
まとめ:違いを正しく理解しよう
威力業務妨害と公務執行妨害は似ているようで、その本質は「対象の違い」にあります。
民間業務が対象なら威力業務妨害、公務員の職務なら公務執行妨害と覚えておきましょう。
いずれも刑罰を受ける重大な犯罪であり、日常で起こり得る誤解や軽率な行動が大きな問題に発展する可能性があります。法律知識を正しく身につけ、冷静な行動を心がけましょう。