交通事故で後遺障害が残った場合、被害者が受け取るべき賠償金の中には「逸失利益」や「慰謝料」が含まれます。しかし、相手が任意保険に未加入であったり、補償が不十分な場合、被害者は自分の保険会社(人身傷害保険等)から補填を受けることになります。では、保険会社が認定した逸失利益よりも裁判所が高い額を認定した場合、差額分はどうなるのでしょうか?この記事では、無保険事故と逸失利益の差額請求の実務をわかりやすく解説します。
逸失利益とは?交通事故での算定基準
逸失利益とは、交通事故によって将来得られるはずだった収入が得られなくなったことによる経済的損失のことです。これは後遺障害等級に基づいて、労働能力喪失率と喪失期間を元に算出されます。
たとえば、35歳の会社員が後遺障害12級と認定され、67歳まで働く可能性があるとされた場合、最大32年間の逸失利益が考慮されます。ただし、実際の保険金支払いでは「喪失期間10年」などと制限されることもあり、この違いが後の請求のポイントとなります。
人身傷害保険の支払いと逸失利益の制限
人身傷害補償保険を利用すると、自分の加入している保険会社から過失割合に関係なく補償が受けられます。しかし、保険約款により、逸失利益の喪失期間が「最大10年」と限定されていることがよくあります。
たとえば、保険会社が「10年分の逸失利益」として800万円を支払ったとしても、裁判所が「17年が妥当」と判断すれば、残り7年分に相当する逸失利益が未補償となり、その部分を相手方に請求する余地が生じます。
無保険加害者に対する差額請求は可能?
無保険の加害者に対しても、法的には損害賠償請求を行うことが可能です。すでに保険会社から支払われた金額を差し引いたうえで、判決により認定された金額との差額分について加害者に請求するという方法が取られます。
たとえば、判決で「逸失利益17年分=1,360万円」と認定され、自分の保険会社から「10年分=800万円」が支払われていれば、残る560万円を加害者に直接請求できるというわけです。
加害者が支払えない場合はどうする?
無保険の加害者が高額な賠償金を一括で支払う能力がない場合、現実的には長期分割や、場合によっては財産の差し押さえなどの法的手続きが必要になります。また、支払能力がまったくない場合は、判決を得ても実際に回収できないリスクもあることを考慮しなければなりません。
このような事態に備え、交通事故における「政府保障事業」や「無保険車傷害保険」などの制度も活用が検討されるべきです。
裁判所の認定金額と保険支払い額の関係
重要なのは、裁判で認定された金額が賠償の「正当な額」とされるという点です。保険会社が支払う金額は契約上の範囲にすぎず、法的な損害賠償額とは必ずしも一致しません。したがって、保険金と裁判所の判断に差がある場合、その差額は加害者に請求できる可能性があります。
ただし、損益相殺の原則により、保険金の受取済み部分は請求額から控除されることになります。これを踏まえて、法的主張を明確に整理することが必要です。
まとめ:逸失利益の差額は請求できるが慎重な判断を
交通事故により後遺障害が残った場合、逸失利益については自分の保険会社から支払われた金額と、裁判所が認定する金額に差が出ることがあります。その差額については、無保険加害者に対して請求可能ですが、実際に回収できるかどうかは相手の資力や状況によります。
このような複雑な問題では、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。的確な請求と回収の可能性を見極めるためにも、専門的なサポートが不可欠です。