弁護士に対する意見の中には、「金にならない案件も引き受けるべき」とする声がしばしば見受けられます。一方で、弁護士も一人の職業人であり、ビジネスとして業務を行っている以上、それに疑問を抱く人もいます。本記事では、このような意見が生まれる背景や社会的要因について深掘りし、実際の法曹界の現実も交えて解説します。
なぜ「金にならない案件でもやるべき」という声が出るのか
このような声の根底には、弁護士は“正義の味方”であるべきという強い理想像が存在します。テレビドラマや漫画などの影響で、「困っている人を助けるのが弁護士の使命」とするイメージが広く定着していることも関係しています。
加えて、「弁護士=公共的存在」といった先入観があり、「自腹を切ってでも支援すべき」という過剰な期待が無意識のうちに生まれている可能性もあります。
現実の弁護士業務はビジネスである
実際の弁護士業務は、綿密な調査、書類作成、交渉、裁判対応など膨大な時間と手間を要するものです。その労力に対して報酬が支払われなければ、経営を成り立たせることは困難です。
例えば、無料相談で1件30分対応しても、事務員の人件費・家賃・システム利用料などがかかっており、すべてを無償で対応することは現実的ではありません。
「本人すら本気で動かない案件」をなぜ他人が担うのか
無料で弁護士に頼りたいという人の中には、「自分では調べる気もない」「行動を起こす気もない」ケースも見られます。そのような当事者意識の低さがあると、弁護士側も「なぜ私が?」と感じてしまうのも当然です。
本人訴訟という選択肢もある中、「やり方が分からないから教えてほしい」ではなく「無料でやってくれ」が前提の相談は、敬遠される傾向にあります。
社会構造と支援制度への誤解
「国や制度があるから、困っている人は無料で助けられるはず」という誤解も根強いです。たしかに法テラス(日本司法支援センター)など、一部には無料相談や費用立替制度も存在しますが、対象者の条件や審査があるため、すべてのケースに適用できるわけではありません。
また、支援制度がある=すべての弁護士が無償で働くという誤解も、弁護士批判につながる原因となっています。
一部には「理念で動く弁護士」も存在する
もちろん、すべての弁護士が営利優先ではなく、人権や公益性を重視して活動する弁護士も多く存在します。過疎地やDV被害者支援、労働問題などを専門とする人もその一例です。
ただし、それも本人の理念や裁量で行っていることであり、誰もが当然に無償で活動すべきという押しつけは成り立ちません。
まとめ:相手も「人」であり「職業人」であるという視点を
弁護士に限らず、誰かに助けを求めるときには「相手も生活がある職業人である」という理解が必要です。無料で支援を受けたい場合は、公的制度を調べる・自身でも行動するなど、当事者意識を持つことが大切です。
社会には支援の仕組みもありますが、それを活かすには「誰かが当然に助けてくれる」という考え方から脱却することが第一歩となるでしょう。