2025年6月1日、刑法の改正により日本の刑罰制度は大きな転換点を迎えました。これまで存在していた「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに統一刑「拘禁刑」へと一本化されたのです。しかし、同年6月以降の報道番組やニュース記事では、依然として「懲役〇年を求刑」「懲役〇年の実刑判決」といった表現が多く使われています。なぜこのような現象が起きているのか、法制度と報道用語のギャップに注目して解説します。
拘禁刑とは何か?懲役と禁錮の違いと統一の背景
これまで日本の刑罰には、懲役(刑務作業を伴う)と禁錮(作業義務なし)という2種類の自由刑が存在していました。
しかし、近年の受刑者処遇においては禁錮受刑者にも作業を勧奨するなど運用上の差がなくなってきており、「実態に合わせて刑名を統一する」目的で2025年6月の法改正により拘禁刑に一本化されました。
これにより、作業の有無にかかわらず、すべての自由刑は「拘禁刑」として扱われることになっています。
報道で“懲役”が使われ続ける理由
実際には制度が変わっても、報道機関は「一般視聴者の理解しやすさ」を重視し、しばらくは従来の用語を用いています。
特に「懲役刑」という表現は社会的に定着しており、「拘禁刑」では意味が伝わりづらいというメディア側の判断があるのです。
たとえばテレビニュースでは、「懲役10年の求刑」や「懲役6年の判決」といった文言が依然として使われており、これは“法的正確さよりも視聴者への伝達力”を優先した表現だと言えます。
求刑が“懲役”なのか“拘禁刑”なのか
実務上、2025年6月以降の事件については、検察が起訴する際の公判請求書類や論告求刑では正式に「拘禁刑」という表現を使用しています。
つまり、法廷では「拘禁刑を求刑する」という言い回しがすでに使われており、裁判所の判決文にも拘禁刑と記載されるようになっています。
ただし、事件が6月1日より前に起きていた場合は、旧法(懲役・禁錮)が適用されるため、その場合は報道で「懲役」が使われていても正しい表現となります。
今後のメディア表現はどう変わるのか
新聞社やテレビ局などの報道機関では、社内用語の変更が段階的に行われているとされています。たとえば。
- 当面は「拘禁刑(旧・懲役刑に相当)」のように注釈付きで報道
- 世間の認知度が上がるまで「懲役」のまま報道し、徐々に拘禁刑へ移行
- 裁判や判決そのものが旧法か新法かで表記を分ける
これは過去にも「成年年齢」や「選挙権年齢」などの変更時と同様、一定の移行期間が必要であることを示しています。
まとめ:拘禁刑への移行と報道用語のタイムラグは想定内
・2025年6月1日以降、法制度上は懲役・禁錮が廃止され「拘禁刑」に一本化。
・法廷ではすでに拘禁刑が使われているが、報道機関では「懲役」の表現が残っている。
・事件発生日が改正前なら「懲役」で正しいケースもある。
・一般認知度や理解促進のため、しばらくはメディアでも旧用語が併用される可能性が高い。
制度改正と社会的な表現にはズレが生じやすいもの。報道表現が完全に「拘禁刑」に切り替わるまでには、少し時間がかかるのが現実です。