刑法における因果関係の理解:条件説と帰属的客観説の違いをわかりやすく解説

刑法における因果関係は、行為と結果がどのようにつながっているかを判断するための基礎となる概念です。とくに条件説と帰属的客観説は、因果関係の考え方として学説上しばしば比較されます。本記事では、これら2つの説の基本的な立場と違いを明確に整理し、理解を深める手助けをします。

条件説:最も基礎的な因果関係の理論

条件説とは、ある行為が結果にとって不可欠な条件(conditio sine qua non)であれば、因果関係があると判断する考え方です。これは、「もしその行為がなかったならば、結果は生じなかったか?」という観点で判断されます。

たとえば、AがBを刺してBが死亡した場合、「Aの刺突がなかったらBは死ななかったか?」と問い、その答えが「はい」であれば、Aの行為は結果の条件となり、因果関係が肯定されます。

帰属的客観説:条件説に社会的評価を加える

帰属的客観説は、単に条件関係があれば因果関係が認められるわけではなく、結果が「行為者の責任に帰属すべきか」という社会的・法的観点を加味して判断する立場です。

すなわち、条件説で因果関係が認められた場合でも、その結果が法的に「行為者の行為によるもの」として帰属すべきかをさらに評価します。この判断には、予見可能性や行為の危険性被害者側の予期しがたい行動などが関係します。

両者の違いを比較してみよう

項目 条件説 帰属的客観説
判断基準 事実的条件関係があるか 条件関係に加えて社会的相当性の評価
適用の対象 主に因果関係の有無 因果関係+結果の帰属
特徴 形式的・客観的 法的・社会的価値判断を含む
例外的要素の考慮 しない する(例:被害者の自己加害行為など)

このように、条件説が因果関係を形式的に判断するのに対して、帰属的客観説はその結果が法的責任として妥当かどうかを評価するという点で差があります。

具体例で見る:両説の適用の違い

ケース:ある人がAという薬物をBに渡し、Bがその薬を摂取して死亡。ところがBは、処方された別の薬とAを自己判断で併用してしまった。

条件説の場合:「Aを渡さなければBは死ななかった」として、因果関係ありと判断。

帰属的客観説の場合:Bの予期しがたい併用行為が介在していることから、「結果が行為者の行為に帰属すべきか」が問題となり、場合によっては因果関係を否定することもあります。

学説上の位置づけと理解のポイント

帰属的客観説は、因果関係を単なる物理的なつながりとしてではなく、「法的な責任追及に足るか」という視点から再評価するもので、ドイツ刑法学の影響を受けた理論的深化といえます。

そのため、「行為と結果が条件関係にある」という点は両説に共通していますが、帰属的客観説はそれだけでは足りず、「法的責任として結果を帰属できるか」が最終的な判断基準になります。

まとめ:条件説と帰属的客観説の本質的違いは「帰属評価」の有無

刑法における因果関係論で、条件説と帰属的客観説はいずれも「条件関係の有無」を起点とする点では共通しています。しかし、帰属的客観説はそこに「行為者に責任を帰属できるか」という追加的な評価軸を導入するため、より実質的・法的判断を重視した理論といえます。

刑事責任を判断するうえで、形式的な因果関係だけでなく、法的妥当性を検討するという点がこの説の重要な意義となっています。

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