刑法第103条で規定される「犯人蔵匿罪」は、罪を犯した者の逃亡を助ける目的で匿った場合に成立します。しかし、実際の場面では、「明確な犯行の認識がなかった」「なんとなく怪しいと思っただけ」といった、あいまいなケースが存在します。この記事では、そのような曖昧な状況でも処罰されることがある「未必の故意」の考え方を中心に、犯人蔵匿罪の成立要件を解説します。
犯人蔵匿罪の基本的な成立要件
刑法第103条によると、犯人蔵匿罪の構成要件は以下のとおりです。
- 犯人が罰金以上の刑に該当する犯罪を犯していること
- 蔵匿または隠避させる行為があること
- 故意があること(=相手が犯人であると認識しながら助けた)
この中でも「故意」の要件が最も判断が分かれるポイントになります。
未必の故意とは?どのような心情が該当するのか
「未必の故意」とは、「違法な結果が生じるかもしれないと認識しつつも、結果が発生しても構わないという心理状態」のことです。つまり、「この人はもしかしたら逃亡中かもしれない。でも、仮にそうだとしても泊めてあげよう」という判断が未必の故意に該当する可能性があります。
このような場合、本人が「具体的な犯罪事実を知らなくても」、逃亡中である可能性を認識しながら助けたならば、「未必の故意が認められる」と判断される余地があります。
「もしかして…」という認識で罪に問われるか?
犯人蔵匿罪において「未必の故意」が成立するためには、単なる「漠然とした不安」だけでなく、「犯罪者である可能性が高い」との具体的認識が必要だと解されています。
つまり、「旅行に来ただけかもしれないし、犯罪者かもしれないけど、それを調べる術がない」といった漠然とした状況では、故意が成立しにくいとされます。しかし、「服装が乱れ、警察に追われている様子があり、本人が何も語らないが不自然」といった状況では、未必の故意が認められる可能性は高まります。
判例が示す未必の故意の判断例
判例では、たとえば「被告が逃亡中の友人を何日も泊めた」「警察がその者を捜索していると知っていた」といった具体的事実を認識していたケースで未必の故意が認定されています。
そのため、「泊めたときに不審に思ったが、深くは追及しなかった」といった程度であっても、客観的に見て「故意があった」と評価されることがあります。
どうすれば未必の故意による罪を避けられるか
誰かを泊める際、その人の事情を深く知る必要があるわけではありません。しかし、明らかにおかしい言動や「逃げている」と思われる状況に接した場合は、警察に通報するか、関わらないことが最善です。
特に、「違法行為の可能性を認識しながら見逃すこと」は、法的なリスクを伴います。善意のつもりでも、結果的に罪に問われることがあるため、慎重な判断が求められます。
まとめ:未必の故意は「可能性の認識」だけでは足りないが…
未必の故意による犯人蔵匿罪の成立には、「逃亡者である可能性を具体的に認識し、それでもあえて匿った」という心理状態が求められます。単なる漠然とした疑いだけでは成立しませんが、状況次第では故意が推定されるリスクもあるため、注意が必要です。