近年、高齢ドライバーによる交通事故が社会問題として注目されています。メディアでも頻繁に報道される中で、「75歳で免許返納を義務化すべき」といった声も上がっていますが、現実にはそれほど単純な問題ではありません。高齢化が進む日本社会において、安全と生活の両立をどう実現するかが問われています。
高齢者の交通事故の現状
警察庁の統計によると、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故の割合は年々増加傾向にあります。2023年のデータでは、死亡事故件数のうちおよそ15％が75歳以上のドライバーによるものでした。
特に、アクセルとブレーキの踏み間違いや交差点での判断ミスによる事故が多く報告されています。こうした背景から、高齢ドライバーの運転技能に対する不安が社会的に広がっているのです。
なぜ免許返納が進まないのか
免許返納制度は既に存在し、75歳以上の運転者は「高齢者講習」や「認知機能検査」が義務化されています。しかし、実際の返納率は10％前後にとどまっています。
理由としては、公共交通機関が未整備の地域に住んでいる高齢者にとって、車が生活の命綱であるという現実があるからです。買い物・通院・介護など、車なしでは日常生活が立ち行かないケースも多くあります。
75歳で免許を無効にすることの是非
一律で免許を無効化することには、以下のような課題があります。
- 生活の足を奪われ、孤立や引きこもりが深刻化する可能性
- 自主返納が進まず、逆に無免許運転を招くリスク
- 年齢だけで判断すると、健康で安全運転ができる人にも不利益が生じる
このように、年齢だけを基準に免許を取り上げることは、公平性や実効性に課題があると言えるでしょう。
代替手段の充実と地域支援の必要性
解決の鍵は、高齢者が免許に頼らなくても生活できる社会インフラの整備です。実際に一部の自治体では以下のような取り組みが進んでいます。
- 移動スーパーや移動診療車の運行
- デマンド型交通（呼び出し式のミニバス）
- 地域ボランティアによる買い物代行や送迎
また、近年注目されているのが「自動運転車」や「高齢者向けカーシェア」の導入です。こうした新技術も今後の選択肢として期待されます。
若年層や子どもを守るために社会全体でできること
確かに、高齢者による事故で若い命が犠牲になることは痛ましく、防止策が急務です。そのためには、個人の責任だけでなく、社会全体で安全を支える仕組みが必要です。
例えば以下のような提案があります。
- 75歳以上の免許更新を「毎年」に短縮
- 高性能ドライブレコーダーや運転支援機能の搭載を義務化
- 運転評価テストによる個別判断制度の導入
これらにより、安全なドライバーには継続的な運転を、リスクがある場合は早期の返納や制限を促す制度が実現できるでしょう。
まとめ：高齢者の運転問題は“共に考える”時代へ
高齢ドライバーの事故が注目される中、「75歳で免許を無効にするべき」という意見も理解できますが、生活実態や個人差を考慮しなければ、逆に新たな社会問題を生む可能性があります。
重要なのは、誰もが安心して暮らせる社会づくり。そのためには高齢者本人だけでなく、家族、地域、行政が連携して解決策を模索していくことが求められています。