生活に困窮する方にとって最後のセーフティネットである生活保護制度。しかし、医師によって「就労不可」と診断されたにもかかわらず、役所側が就労を求めるという事例に戸惑う人も少なくありません。ここでは、生活保護の基本的な考え方と、医師の診断書がある場合の正しい対応について解説します。
生活保護の原則と「能力活用」の考え方
生活保護制度は、厚生労働省が定めた「生活保護法」に基づき、最低限度の生活を保障する制度です。その原則のひとつに「能力の活用」があります。
つまり、健康で働ける能力がある人には、まず就労による自立を促すというのが基本方針です。これは不正受給の防止や自立支援の観点から正当な考えとされています。
医師の「就労不可」診断書の効力
心臓病などによる就労困難の診断書が正式に提出されている場合、役所がその診断を無視して就労を強要するのは不適切です。
生活保護申請においては、医師の診断が非常に重要な判断材料となり、それに基づいて福祉事務所は就労指導の有無や程度を調整すべきです。診断書があれば、無理な就労を強いることは原則ありません。
役所の対応に問題があるケースとその対処法
「少しでも働かないと生活保護は受けられない」といった対応があった場合、行政手続き上の誤りがある可能性があります。特に、就労が困難な身体状態であれば、厚労省の通知でも柔軟な対応が求められています。
このような場合は、以下の対応が可能です。
- 福祉事務所に対して正式な「再審査請求」を行う
- 地域の無料法律相談や法テラスに相談する
- 行政相談窓口(総務省・地方自治体)を利用する
診断書の「書き換え」要求は違法性を帯びる可能性
行政側が診断書の書き換えを求めるような言動をとった場合、それは極めて不適切です。医師の診断は医学的根拠に基づくものであり、行政都合で内容を変えるよう求めることは、虚偽公文書作成の教唆にもなりかねません。
そのような要求があった場合は、記録を取り、弁護士や第三者機関への相談を検討すべきです。
制度の限界と現場の課題
生活保護制度は全国統一の制度であるにも関わらず、自治体ごとの運用には温度差があります。特に地方自治体では、職員の理解不足や人手不足などから、柔軟な対応ができないケースも散見されます。
こうした背景もあり、本人や家族が制度の知識を正しく持ち、必要に応じて外部機関を活用することが大切です。
まとめ:適切な制度運用のために声を上げることが重要
生活保護は「権利」であり、適切な条件を満たしていれば誰もが利用できます。医師が「就労不可」と判断しているにも関わらず、働かないと保護が受けられないというのは制度の趣旨から逸脱しています。
まずは冷静に制度を理解し、不当と思える対応には手続きをもって対抗しましょう。一人で抱え込まず、行政相談窓口や法的機関の助けを借りて、納得のいく形で生活再建を目指すことが大切です。