業務中の事故に備えて会社が加入する自動車保険において、「労災があるから人身傷害保険は不要では?」という声を聞くことがあります。しかし、この考え方には見落とされがちな重要なリスクが存在します。本記事では、労災と人身傷害補償の違いを明確にしながら、実務上の備えとして何が必要かを解説します。
労災保険と人身傷害補償の役割の違い
労災保険は、業務上または通勤途上の事故によるケガや病気、死亡に対して、医療費や休業補償などを給付する制度です。原則的に治療費は全額カバーされ、休業4日目から給与の8割近くが補償されます。
一方で、人身傷害補償保険は自動車事故に関する損害を広くカバーする制度で、治療費だけでなく、逸失利益(将来得られたはずの収入)や精神的損害(慰謝料)なども含めた補償が可能です。
人身傷害保険が必要な実例
ケース1:社員が業務中に事故に遭い重傷を負ったが、労災の支給額では治療やリハビリ費用が一部しかまかなえず、差額が自己負担に。
ケース2:加害者が任意保険未加入で賠償能力がなく、労災では慰謝料が出ないため、被害者が精神的にも経済的にも打撃を受けた。
人身傷害補償のメリット
- 治療費、通院交通費、逸失利益、精神的損害まで幅広く補償
- 加害者が無保険・逃走した場合も補償される
- 示談不要でスムーズな保険金支払いが可能
特に法人所有の業務車両では、事故の加害者と被害者が自社社員というケースもあり、補償の公平性確保の観点からも有用です。
人身傷害を付けない場合のリスク
「費用節約のために人身傷害補償を外す」という選択は、事故が起きなければコスト削減になります。しかし一度でも重大事故が発生すれば、従業員が適切な補償を受けられず、企業としての責任や信用問題に発展することもあります。
また、従業員から会社に対して損害賠償請求されるリスクもあるため、経営リスクマネジメントの観点からも補償の充実が望まれます。
経費ではなく“安心”の投資と考える
人身傷害補償保険の保険料は確かに安くはありませんが、企業の社会的責任や従業員保護の観点から見れば、それは「経費」ではなく「将来の安心への投資」です。
保険は使うものではなく、使わないための備えです。事故が起きたときに、従業員の生活を守れるかどうか。その視点が保険選びに求められます。
まとめ:労災と人身傷害は補完関係
・労災保険ではカバーできない費用がある
・人身傷害補償保険は事故による損害を幅広く補償
・企業の信頼性と従業員の安心を守るためにも加入が推奨される
業務車両には「最低限の補償」ではなく、「万一に備えた十分な補償」を。保険は起きてからでは遅いもの。今一度、補償の中身を見直してみてはいかがでしょうか。