自衛官が交通事故で負傷した際、「健康保険証を使ってはいけない」と言われることがあります。一般の会社員とは異なる制度のもとにある自衛官ならではの理由があるのです。本記事ではその背景や補償の仕組みを分かりやすく解説し、実際の対応方法についても具体例を交えて紹介します。
自衛官は健康保険ではなく「防衛省共済組合」に加入
自衛官は民間の健康保険や協会けんぽなどには加入していません。その代わりに、国家公務員であるため「防衛省共済組合」に加入しています。この共済制度は、医療費や休業手当などを含む独自の給付制度を持っています。
このため、通常の健康保険証とは異なるルールが適用され、「共済制度に則った手続きをとること」が前提となっているのです。
交通事故時に保険証を使うとどうなる?
交通事故は第三者(加害者)がいるケースが多く、本来はその加害者が損害賠償責任を負うべき状況です。ここで健康保険(共済)を使用してしまうと、加害者が支払うべき治療費を保険で負担してしまうという問題が生じます。
そのため、交通事故においては、原則として保険(共済)を使わず、自費で立て替えて、後に加害者の任意保険や自賠責から回収する、あるいは共済の「第三者行為届」を提出することが求められます。
共済制度における「第三者行為届」とは?
共済組合では、交通事故や暴行など「第三者の行為」によってケガを負った場合、「第三者行為による傷病届」を提出しなければなりません。これにより、共済組合は仮払いとして医療費を立て替え、後日、加害者側へ請求を行います。
つまり、自衛官が事故でけがをして病院にかかる際は、病院へ「第三者行為届」を提出予定であることを説明し、保険証を出さずに窓口へ相談するのが正しい流れになります。
間違って保険証を使ってしまった場合は?
もしうっかり健康保険証を使ってしまっても、後から「第三者行為届」を提出して処理を修正することが可能です。ただし、そのまま放置しておくと加害者への請求が行えなくなるため、迅速な対応が必要です。
また、加害者が不明で損害賠償請求が困難な場合には、自衛隊共済組合が補填し、その後自賠責などから回収を試みるケースもあります。
自衛隊内の通達や運用も影響
防衛省や自衛隊内部には事故発生時の報告義務や、共済との調整に関する通達があります。部隊を通じて所定の処理が行われるため、個人の判断で保険証を提示してしまうと、報告漏れや処理上の問題を引き起こすおそれがあります。
現場の病院も共済制度に詳しくない場合があるため、所属の部隊や医務室へ相談しながら処理を進めるのが最も安全です。
まとめ:自衛官が交通事故で保険証を使わないのは制度上の正しい対応
自衛官が交通事故で保険証を使ってはいけない理由は、第三者(加害者)に責任がある医療費を共済で負担しないようにするためです。防衛省共済組合では「第三者行為届」によって、適切に医療費の立替・回収処理が行われます。
事故時には慌てず、保険証を出す前に医務室や上官に相談し、共済の正規ルートで対応することが大切です。誤った対応をしてしまっても、後からの修正が可能なので、早めの報告と確認を心がけましょう。