職場における人事対応や部署異動の過程で、不誠実な対応を受けたと感じた経験を持つ人は少なくありません。とくに、ハラスメント対策の一環として異動した先の部署が、事前の説明と異なり短期間で廃止されるような事態は、信頼関係の破壊につながります。本記事では、こうしたケースにおける法的観点と実務上の対応方法を解説します。
人事による「虚偽説明」は信用毀損罪にあたるか?
信用毀損罪(刑法第233条)は、虚偽の情報を流すことで他人の社会的信用を損なう行為を罰するものです。ただし、この罪が適用されるのは通常、企業や団体に対する「外部からの悪意ある風評」が対象となるため、社内での人事説明に虚偽があったとしても、これに該当する可能性は極めて低いです。
したがって、信用毀損罪というよりは、労働契約上の信義則違反や不法行為として民事上の責任を問うのが現実的なアプローチです。
法的に争うなら「安全配慮義務違反」や「不法行為」で
人事が「部署はなくならない」と明言し、それを信じて異動したにもかかわらず、短期間で部署が廃止された場合、雇用契約上の信義則違反や安全配慮義務違反に該当する可能性があります。
とくに、異動先が精神的・物理的に不安定な状況になると想定できる場合、それを回避する配慮が企業側に求められるため、「労働者保護」の観点から訴訟対象となることもあります。
「言った・言わない」問題はどう立証される?
法的な争点としてよくあるのが、「人事担当者が○○と言った・言わない」という証明の問題です。この場合、次のような証拠が重要です。
- 会話を録音していた場合の音声データ
- 人事担当者とのメールやチャット履歴
- 社内稟議書・配属通知・議事録などの文書
- 会話に同席していた第三者の証言
特に録音や文面での証拠があると、発言の存在を裏付けやすく、弁護士間の交渉や訴訟でも有利に働きます。
もし口頭のみのやりとりだった場合の対応
たとえ録音などが残っていない場合でも、労働者側に継続的な被害や不利益(たとえば、メンタル不調・業務評価の不当な変動)が発生していれば、それらを通じて「企業側の説明に過失があった」ことを主張できる可能性はあります。
また、部署廃止が組織再編による計画的なものであった証拠(社内文書など)があれば、「説明時点で既に知っていた=故意」だったと判断されることもあります。
弁護士との相談を有利に進めるための準備
- 人事とのやりとりを時系列で整理する
- 異動から部署廃止までの社内文書を保存
- 心身に変調があった場合は医療記録も用意
- できれば労働組合や社外相談窓口にも相談実績を残す
弁護士は、証拠の精度と分量で戦い方を判断します。記録が少ない場合でも「いつ・誰と・どんなやりとりがあったか」をメモにしておくだけでも十分な価値があります。
まとめ:誠実な説明を受けられなかったときの法的視点
「ありません」と断言されたにもかかわらず部署が廃止されてしまった場合、それが故意の虚偽であったかどうかが、争点になります。信用毀損罪は成立しづらいものの、民事上の責任追及や労働問題として法的措置を検討する余地は十分にあります。
特に、「言った・言わない」の場面では、記録の有無がカギです。今後のためにも、日常的な記録習慣を持ち、万一に備えた法的視点を忘れないことが重要です。